東洋経済04/28 4:30小島 好己 : 翠光法律事務所弁護士
https://toyokeizai.net/articles/-/424265
(略)
乗客や係員の姿と列車がある駅は鉄道写真の撮影ポイントであるし、いわゆる車両の形式写真撮影にもホームでの撮影はうってつけである。しかも、駅構内に入場するのには入場券かきっぷを持っていればよく、複雑な受付も不要である。鉄道写真を撮る者からすれば駅は最高の撮影ポイントの1つである。
管理権は鉄道会社にある
しかし、あくまでも駅構内の管理権は鉄道会社にある。駅構内をどのように利用し、利用させるかの第一次的な判断権は鉄道会社にある。通常、駅構内に正当に立ち入ることのできるきっぷを持っている者の入場を拒絶することはないが、それは“駅を利用してくださるお客様”だからであって、列車を撮影してもらいたいからではない。
危険の芽を摘むのは当然
また、裁判などの法的紛争に発展しなくても、事故や支障が起きれば列車を止めなければならない。復旧作業もしなければならない。鉄道会社にとっては負担である。鉄道会社からすれば事故が起きないように少しでも危険の芽は除去したいと考えるのは当たり前である。
鉄道写真の撮影を駅構内などで許すことについて、鉄道会社の負担が大きく、危険が除去されず、利用者の批判的な声が大きくなるなら、駅の管理権を持つ鉄道会社の判断として、駅構内では許可を得た人以外は撮影禁止とされても文句は言えない。
観光列車も増えてきた今では記念撮影もあるだろうから、“許可者以外駅構内全面撮影禁止”とするのは難しいところも多いであろう。しかし、たとえば、撮影禁止場所を増やすとか、人が集まる可能性のある列車の運転日、運転時刻にあわせて、場所や時間を限定して撮影禁止とするという方法もある。
鉄道写真を駅構内で撮影できるのは、あくまでも構内の管理権を持つ鉄道会社の厚意ということを今一度考えるべきである。有効なきっぷを持っていたとしてもそれは輸送や入場の対価を支払っているだけであって、傍若無人に駅構内で振る舞える権利を鉄道会社から購入しているわけではない。
無人駅であっても同じである。無人駅では改札口できっぷを確認することはなく、立ち入りについてはフリーパスのことが多い。しかしだからといって無制限に許しているわけではないし、好き勝手することまで許しているわけではない。たとえば無人駅のホームで無許可でバーベキューなどしていいはずがない。
なにかあったときの鉄道会社の負担から考えてみる。
駅構内で事故が発生して死傷者が発生したり、利用者の物が破損したりするようなことがあれば、鉄道会社が責任を追及されることもありうる。もちろん、駅は列車が高速で行き交う場所でもあり危険な場所であることは利用者も認識しているべき場所だから、鉄道ファンを含め駅のホームから人が転落したり触車したりして人的物的被害が生じた場合でも、鉄道会社が管理を怠っていなければ鉄道会社が責任を負わされることにはならない。
しかし、仮に鉄道会社に対して裁判が起こされれば、結論で鉄道会社が免責されたとしても、解決までに無用な時間と費用がかかる。日々裁判業務を行っている私からすれば、可能なら裁判など起こさない、あるいは起こされないに越したことはないとつねに思っている。裁判を起こさなくても済むよう、起こされなくても済むように事前に準備・対応をすることこそが重要である。
刑法第130条には不退去罪の規定(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)があり、人が管理する建造物から要求を受けても退去しない場合には犯罪を構成することになるから、撮影禁止に従わず退去を求めることについて法的な裏付けもある。
また、駅係員や乗務員への暴言は侮辱罪(刑法第231条・拘留または科料)、業務の支障となれば威力業務妨害罪(刑法234条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)に問われる可能性がある。
なお、車内の秩序を乱すようなことがあった場合には、鉄道営業法により係員がその旅客を車外または鉄道の敷地外に退去させることができる(鉄道営業法第42条第1項第4号)。
趣味の行為を法律で縛るのは不粋かもしれない。それはわかっている。私も今までどおり駅構内で鉄道写真を撮りたいと思っている。しかし今や、デジカメやスマホが普及して撮影のハードルが下がったからか、「撮り鉄」だけでなく鉄道趣味者でない人の撮影でも危険な行為を見ることがあり、このままでは駅構内を含めて撮影禁止場所が増えても仕方ないのでは、と危惧する。
(以下略)
https://toyokeizai.net/articles/-/424265
(略)
乗客や係員の姿と列車がある駅は鉄道写真の撮影ポイントであるし、いわゆる車両の形式写真撮影にもホームでの撮影はうってつけである。しかも、駅構内に入場するのには入場券かきっぷを持っていればよく、複雑な受付も不要である。鉄道写真を撮る者からすれば駅は最高の撮影ポイントの1つである。
管理権は鉄道会社にある
しかし、あくまでも駅構内の管理権は鉄道会社にある。駅構内をどのように利用し、利用させるかの第一次的な判断権は鉄道会社にある。通常、駅構内に正当に立ち入ることのできるきっぷを持っている者の入場を拒絶することはないが、それは“駅を利用してくださるお客様”だからであって、列車を撮影してもらいたいからではない。
危険の芽を摘むのは当然
また、裁判などの法的紛争に発展しなくても、事故や支障が起きれば列車を止めなければならない。復旧作業もしなければならない。鉄道会社にとっては負担である。鉄道会社からすれば事故が起きないように少しでも危険の芽は除去したいと考えるのは当たり前である。
鉄道写真の撮影を駅構内などで許すことについて、鉄道会社の負担が大きく、危険が除去されず、利用者の批判的な声が大きくなるなら、駅の管理権を持つ鉄道会社の判断として、駅構内では許可を得た人以外は撮影禁止とされても文句は言えない。
観光列車も増えてきた今では記念撮影もあるだろうから、“許可者以外駅構内全面撮影禁止”とするのは難しいところも多いであろう。しかし、たとえば、撮影禁止場所を増やすとか、人が集まる可能性のある列車の運転日、運転時刻にあわせて、場所や時間を限定して撮影禁止とするという方法もある。
鉄道写真を駅構内で撮影できるのは、あくまでも構内の管理権を持つ鉄道会社の厚意ということを今一度考えるべきである。有効なきっぷを持っていたとしてもそれは輸送や入場の対価を支払っているだけであって、傍若無人に駅構内で振る舞える権利を鉄道会社から購入しているわけではない。
無人駅であっても同じである。無人駅では改札口できっぷを確認することはなく、立ち入りについてはフリーパスのことが多い。しかしだからといって無制限に許しているわけではないし、好き勝手することまで許しているわけではない。たとえば無人駅のホームで無許可でバーベキューなどしていいはずがない。
なにかあったときの鉄道会社の負担から考えてみる。
駅構内で事故が発生して死傷者が発生したり、利用者の物が破損したりするようなことがあれば、鉄道会社が責任を追及されることもありうる。もちろん、駅は列車が高速で行き交う場所でもあり危険な場所であることは利用者も認識しているべき場所だから、鉄道ファンを含め駅のホームから人が転落したり触車したりして人的物的被害が生じた場合でも、鉄道会社が管理を怠っていなければ鉄道会社が責任を負わされることにはならない。
しかし、仮に鉄道会社に対して裁判が起こされれば、結論で鉄道会社が免責されたとしても、解決までに無用な時間と費用がかかる。日々裁判業務を行っている私からすれば、可能なら裁判など起こさない、あるいは起こされないに越したことはないとつねに思っている。裁判を起こさなくても済むよう、起こされなくても済むように事前に準備・対応をすることこそが重要である。
刑法第130条には不退去罪の規定(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)があり、人が管理する建造物から要求を受けても退去しない場合には犯罪を構成することになるから、撮影禁止に従わず退去を求めることについて法的な裏付けもある。
また、駅係員や乗務員への暴言は侮辱罪(刑法第231条・拘留または科料)、業務の支障となれば威力業務妨害罪(刑法234条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)に問われる可能性がある。
なお、車内の秩序を乱すようなことがあった場合には、鉄道営業法により係員がその旅客を車外または鉄道の敷地外に退去させることができる(鉄道営業法第42条第1項第4号)。
趣味の行為を法律で縛るのは不粋かもしれない。それはわかっている。私も今までどおり駅構内で鉄道写真を撮りたいと思っている。しかし今や、デジカメやスマホが普及して撮影のハードルが下がったからか、「撮り鉄」だけでなく鉄道趣味者でない人の撮影でも危険な行為を見ることがあり、このままでは駅構内を含めて撮影禁止場所が増えても仕方ないのでは、と危惧する。
(以下略)