連載「おうち、面白いひとどすな」本当は怖い、京ことば【第5回】
高齢のご婦人が「足腰立たんようにしばき倒しときますわ」と…【本当は怖い京ことば】
大淵 幸治2022.6.6
「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、
はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「きつきつ堪忍え」「しばき倒しときますわ」の意味を探ります。
【きつきつ堪忍え】
京では男も女も同じ言葉を使い、性差はない。だが、男もすなる日記ではないが、純然たるおんな言葉もないではない。表題の「~え」がそうだが、これは男はあまり使わない。もし使ったとしたら、あっち系のひとだと思われるだろう。
いまでいう「オネェことば」だ。
だが、わたしの管見ではここ五十年ほどは、これと「~しなさい」という意味の「~しよし」以外のおんな言葉は聞いたことがない。おそらく「京のおんな言葉」として歴然としているのは、これくらいしかないのではないだろうか。
だから、表題は京女性の用いる表現ということになるが、ここにある「きつきつ」という副詞が女性言葉であることを如実に物語っている。関西に多い冗語のひとつだが、このように同じ語を重ねていうことで、言明の度をさらに強める。
聞き手はこの言葉を聞くことで、話者が本気で謝っている、もしくはそう思わせようとしていると感じるはずだ。「ほんまに堪忍え」といわれるのと、「きつきつ堪忍え」といわれるのと、いずれが本物(のおんな)らしく聞こえるだろうか。
勘のいい読者には、後者の女性が両手を擦り合わせて、あなたに申し訳なさそうな表情で拝むようにしている様子が浮かんでいることだろう。
そこには、「ほんまに」と発語した女性との年齢の差までが見えているに違いない。
しかも、仄かな色香まで漂ってくるではないか。それほどに、京おんなの使う「きつきつ」は効果絶大なのだ。読者が女性なら、ぜひ一度お試しあれ。
…本気で謝ってますのえ
===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://gentosha-go.com/articles/-/42503
次ページ > 【しばき倒しときますわ】
https://gentosha-go.com/articles/-/42503?page=2
高齢のご婦人が「足腰立たんようにしばき倒しときますわ」と…【本当は怖い京ことば】
大淵 幸治2022.6.6
「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、
はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「きつきつ堪忍え」「しばき倒しときますわ」の意味を探ります。
【きつきつ堪忍え】
京では男も女も同じ言葉を使い、性差はない。だが、男もすなる日記ではないが、純然たるおんな言葉もないではない。表題の「~え」がそうだが、これは男はあまり使わない。もし使ったとしたら、あっち系のひとだと思われるだろう。
いまでいう「オネェことば」だ。
だが、わたしの管見ではここ五十年ほどは、これと「~しなさい」という意味の「~しよし」以外のおんな言葉は聞いたことがない。おそらく「京のおんな言葉」として歴然としているのは、これくらいしかないのではないだろうか。
だから、表題は京女性の用いる表現ということになるが、ここにある「きつきつ」という副詞が女性言葉であることを如実に物語っている。関西に多い冗語のひとつだが、このように同じ語を重ねていうことで、言明の度をさらに強める。
聞き手はこの言葉を聞くことで、話者が本気で謝っている、もしくはそう思わせようとしていると感じるはずだ。「ほんまに堪忍え」といわれるのと、「きつきつ堪忍え」といわれるのと、いずれが本物(のおんな)らしく聞こえるだろうか。
勘のいい読者には、後者の女性が両手を擦り合わせて、あなたに申し訳なさそうな表情で拝むようにしている様子が浮かんでいることだろう。
そこには、「ほんまに」と発語した女性との年齢の差までが見えているに違いない。
しかも、仄かな色香まで漂ってくるではないか。それほどに、京おんなの使う「きつきつ」は効果絶大なのだ。読者が女性なら、ぜひ一度お試しあれ。
…本気で謝ってますのえ
===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://gentosha-go.com/articles/-/42503
次ページ > 【しばき倒しときますわ】
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