ネトウヨには見えない現実


もっと馬鹿馬鹿しい話がある。町内の、ある家の井戸水を飲んではいけないと云うのだ。
何故なら、その井戸の外の塀に、白墨で書いた変な記号があるが、あれは朝鮮人が井戸へ毒を入れた目印だと云うのである。
私はあきれ返った。

何をかくそう、その変な記号というのは、私が書いた落書だったからである。 私はこういう大人達を見て、
人間というものについて、首をひねらないわけにはいかなかった。

(黒澤明『蝦蟇の油―自伝のようなもの―』岩波現代文庫、2001年。初刊は1984年)