今回のミサイル狂騒曲の当事者であるアメリカと北朝鮮の「結果」について考えてみる。

 ■まず、アメリカが得たもの、それは莫大な軍事マネーである。

 トランプ大統領の就任前後から軍事関連株は好調であったが、今回のシリア爆撃から、北朝鮮が絡む東アジア危機に至る期間、
例えば売上高の80%は軍事関連が占める、ロッキード・マーチン社や、航空機製造の最大手ノースロップ・グラマン社の株価は急騰している。

 更には、標的を大気圏外から狙う弾道ミサイルを大気圏に再突入するタイミングで破壊できるTHADD(高高度防衛ミサイル)を韓国に配置したことにも注目だ。
トランプ大統領は、このTHADD配備の費用10億ドルを韓国に求めた。(4月30日、マクマスター米大統領補佐官が費用は米国が支払うと訂正)
 
これは単に費用負担の問題ではない。文在寅氏の当選が有力と言われている韓国の大統領選であるが、ハト派の文氏に軍事費の削減に舵を切らせないための牽制であったと推測出来る。

また今回の北朝鮮危機により、日本の防衛省もTHADDの配備の検討をスピードアップさせた。これにより、また莫大な軍事マネーがアメリカに転がり込む。
結果論で言えば、トランプ大統領のビジネスマンとしての商才が発揮されたと言える。

 ■一方、北朝鮮は何を得たのか。

 北朝鮮は今回の一連の騒動で、アメリカのレッドラインを確認することに成功した。アメリカが金正恩委員長の暴発を恐れるのと同様、
北朝鮮にとってもトランプ大統領の暴発には未知数な部分があったはず。
北朝鮮が求めているのは、核カードをちらつかせながら、アメリカを交渉のテーブルにつかすことである。
 さすがにそこまでの戦果を得ることは出来なかったが、このレベルであればアメリカの攻撃を受けることはないという、セーフティーな前例を作ることには成功した。

日中韓それぞれが得たものは?

■今回の北朝鮮危機に対し、アメリカが注目したのが、中国の北朝鮮に対する影響力である。

 トランプ大統領は、幾度となく中国が北朝鮮に自制を求めるよう要求した。中国としては自国の防衛戦略における緩衝地域として北朝鮮を重視している一方、
米中会談中のシリア攻撃により面子を潰された恨みもある。

 アメリカの度重なるお願いをいなしながら、結果として、トランプ大統領から「北朝鮮の核・ミサイル問題の解決に向けて中国が影響力を行使してくれるなら、
見返りとして貿易不均衡など米中の通商交渉で米側が譲歩する用意がある」(4月30日、CBSテレビインタビュー)との言葉を引き出すことに成功した。

■朴槿恵大統領の弾劾による大統領選の真最中である韓国はどうか。

 実際に朝鮮半島で戦争が勃発すれば、一番の害を被るのが韓国である。

 しかし北朝鮮狂騒曲に踊った日本とは対照的に、韓国の報道は連日大統領選一色で、一時、THADD配備の費用負担を突然迫られたことは報道されたが、北朝鮮危機に関しては殆ど語られることはなかった。
結果論でいえば、独走態勢を築く文候補に対抗する、安哲秀候補や洪準杓候補が、北韓(北朝鮮)強硬論の保守層の票を取り込んだ程度。

 あとは、釜山領事館前に設置された慰安婦像の一件で引き揚げた長嶺安政日本大使が、今回の騒動に関わる情報収集を優先させるとの口実で、約3カ月ぶりに帰任したのも、
面倒な外交交渉を一つ減らせた韓国側のメリットとも言えるか。