韓国の新大統領に10日、文在寅(ムン・ジェイン)氏が就任した。文氏は選挙戦を通じて、慰安婦問題をめぐる日韓合意の見直しなど、反日的な言動を繰り返した。九州・山口は、中国や韓国が仕掛ける「歴史戦」の最前線だけに、関係者から、文氏の姿勢を危惧する声が上がった。

 「大統領就任後も反日的な態度に出るなら、反日グループがそれに乗じて、日本にいる支援者と組み、『強制連行があった』と蒸し返すだろう」

 長崎市にある端島(はしま)炭坑(通称・軍艦島)の見守り活動を続ける同市の会社経営、小川茂樹氏(53)は、こう語った。

 端島炭坑は平成27年、「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録された。その際、韓国側から「朝鮮半島出身者らが強制労働をさせられた監獄島だ」と根拠のない批判が浴びせられた。

 このため長崎市は昨年、観光クルーズ船での案内用として、運航会社に「島民は一つの家族のようだった。監獄島ではない」などと反論する文書を配布せざるを得なかった。

 「明治日本の産業革命遺産」では、松下村塾(山口県萩市)も韓国から非難を受けた。同国外務省の真相究明委員会が作成した冊子は、吉田松陰が「朝鮮半島への日本の帝国主義を主導した」と断じた。

 松下村塾を管理する松陰神社の青田国男宮司(67)は「反日で国をまとめる動きは非常に残念だ。アジアの近代史で日本の果たした役割を、光と闇の両面で見るべきだ。日本で『韓国を放っておけ』という論調が強くなれば、困るのは韓国だ。現実路線でかじ取りしてほしい」と求めた。

 現実路線を望む声は経済界からも上がった。

 山口県下関市と韓国・釜山の定期便を運航する関釜フェリーによると、釜山の日本総領事館前に慰安婦像が建てられるなど日韓関係の悪化が影響し、日本人の利用は低迷が続く。

 一方、韓国人の利用者は2〜3カ月前から増加し、全利用者の8割以上を占める。高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐり、中国との関係が悪化したため、旅行先を中国から日本に変更するケースが多いとみられる。

 同社の担当者は「文大統領には、日本人も安心して韓国に旅行できるよう、北朝鮮の核開発問題や慰安婦像の撤去などに取り組んでほしい」と語った。

 福岡県飯塚市で朝鮮人追悼施設内に記された「強制連行」の表現などに対し、誤った歴史認識を正す活動をしている市民団体共同代表、佐谷正幸氏(84)は「韓国の国民は感情をむき出しにして騒ぎ、それによって政権の判断が左右される。そうした状況は簡単には変わらないとは思うが、日本の訴えにも理解を示してもらいたい」と主張した。

 冷静さを求めるのは、日本人だけではない。在日本大韓民国民団(民団)の在福岡幹部は「文大統領も、国家間の合意は破棄できないと分かっているはずだ。両国関係の早期改善を望みたいのが本音ではないか」と語った。

 文氏は反日姿勢に加え、北朝鮮への融和論者で知られる。

 昭和53年8月に鹿児島県日置市から北朝鮮に連れ去られた市川修一さん(62)=拉致当時(23)=の兄、健一さん(72)は「制裁をかけないと北朝鮮の思い通りに進んでしまう。核やミサイル、拉致は国際社会が歩調を合わせて解決せねばならないが、日米韓にひびが入ることを懸念している」と語った。

 韓国人に仏像が盗まれた長崎県対馬市の観音寺の前住職、田中節孝氏(70)は「日本との問題を決着させない姿勢をみせることがトレンドになっており、慰安婦問題などの解決は難しいと思う。だが、政権が変わろうとも、過去に話し合い、決定したことを守るのが世界のルール。守らなければ信頼されない国になる」と主張した。

 観音寺から盗まれ韓国に持ち込まれた「観世音菩薩坐像」については、1月に韓国・大田(テジョン)地裁で日本への返還を認めない判決が出された後、2審で審理が続いている。

 文氏は9日夜の勝利宣言で「常識が常識として通じる国をつくる」と語った。九州・山口の人々も、国際常識が通じる国づくりを望んでいる。

http://www.sankei.com/region/news/170511/rgn1705110006-n1.html