オフィス、自宅、駅、カフェ、Wifiルーターはまさにありとあらゆる場所に設置されて我々のネット環境を支えてくれています。
が、そんなWifiからの信号を使って物体の姿を捉えることに、ミュンヘン工科大学の研究者たちが成功しました。
アメリカ物理学会の科学誌Physical Review Lettersに研究結果が発表され、学会のPhysicsでも紹介されています。

研究者たちは一般に販売されているWifiルーターを改造することなく、部屋の中にある十字架の姿を捉えたとのこと。
まだまだ画像は粗く、位置情報を正確に測るためにアンテナを設置しなければならないようですが、それでもはっきりと十字架だとわかる画像です。

実験は、部屋の中に移動式のアンテナを設置。
そのアンテナとWifiルーターの間に十字架を置き、横にも位置の計算のために使われるアンテナがもう一つ置かれたそうです。
アンテナはルーターから発された信号を集めると同時に、室内のさまざまなものに跳ね返って反射する信号も集めます。

こうやって集めたデータを元に十字架の姿を計算して捉えるという仕組み。
例えるとルーターが光源で、十字架が作り出す影から十字架の存在を捉えるようなことが行なわれているわけです。

http://www.gizmodo.jp/images/2017/05/170510wifi2.jpg

Wifiを使って画像を捉えるという技術自体は新しいものではありません。
Physicsによると、「従来は受信器となるアンテナに到達する信号データのうち、到達角度といった一部のデータだけを利用していた」のに対し、今回は「直接アンテナに届くものと環境に反射して届いたもの両方のあらゆるデータを利用した」ことでより正確な位置情報を計算することができるようになったそうです。

こんな技術があったらWifiを使って部屋の中を透視されちゃうよ...!と心配になりますが当面はそんな心配は無用のようです。
アンテナを設置しないといけないのに加えて、物体を捉えるのに非常に長い時間がかかるとのことです。

論文を発表した研究者のうちの一人、ミュンヘン工科大学のPhilipp Hollさんはアンテナを複数一列に並べるだけでもスピードが一気に早くなるでしょう、と語っています。
「ドローンやトラックに取り付けられた一列のアンテナを使うだけで記録時間を数秒にまで縮められる可能性があります」とのこと。

いきなりアパートの窓の外にドローンから吊り下げられたアンテナが登場しない限りはとりあえずは大丈夫そうですね。
しかし「データのやり取り自体が暗号化されていたとしても、(物理的な)環境の3D画像を外の世界に発していることに変わりはない」という側面には注意を向け始めるべきだと研究者も示唆しているようです。

http://www.gizmodo.jp/images/2017/05/170510wifi.jpg
http://www.gizmodo.jp/2017/05/radar-wifi.html