重いやけど(熱傷)を負った際、傷んだ自分の皮膚の代わりに他人から提供された皮膚を移植する治療法がある。この方法は、重症熱傷に付きものの感染症を防ぐとともに患部を保護して救命率を高める効果がある。半面、人工物での代替は難しく、臓器移植と同様に亡くなった人からの提供に支えられる医療だ。近年、提供者不足で肝心の皮膚の備蓄が枯渇。関係者は危機感を強め、この医療への理解を求めている。 (由藤庸二郎)

 日本スキン(皮膚)バンクネットワークの代表理事である仲沢弘明日本大教授(形成外科)によると、提供皮膚を保管し、必要に応じて提供するバンクは1993年に近畿で、94年に東京で発足。2004年には全国組織として日本スキンバンクネットワークが設立され、現在81の医療機関が加盟している。

 提供者発生の連絡があると、スキンバンクのコーディネーターが現場に向かい、臓器摘出後に皮膚を採取。皮膚はシート状にして処理し、凍結保存する。熱傷患者に移植の必要があると判断した医療機関は、バンクに要請して移植用皮膚の提供を受ける仕組みだ。

 「課題は提供者不足」と仲沢さんは言う。備蓄が少ない日本では1回に10センチ四方のシート15枚に限られ、足りない部分は機能の劣る人工皮膚で補うなどしてきた。しかし、備蓄は枯渇しつつある。

 バンクの資料によると、2000年代に入り年20〜40人で推移してきた皮膚の提供者は13、14年は10人台、15年5人と激減し、昨年はわずか1人。07年には70人を超えていた移植患者数も15年は19人、昨年は5人だった。コーディネーターの退職なども影響したが、主たる理由は提供不足だ。

 日本臓器移植ネットワークによると、臓器提供の際、家族には心臓や肝臓、眼球などと並び、心臓弁や血管、皮膚などの組織も提供が可能だと伝えられることがある。ただ、心臓や肝臓に比べ皮膚の提供についての認知度は低いという。

 熱傷患者への皮膚移植の経験が豊富な池田弘人帝京大准教授(救急医学)は「人工皮膚は進歩したが、人の皮膚に匹敵するほどの機能はまだ達成できていない」と話す。

 池田さんによると、人間の皮膚は表皮と真皮とがあり、熱傷は表皮で止まる1度、真皮に至る2度、真皮がすべて損なわれる3度に分けられる。広い範囲で皮膚が深くまで傷んだ重症の患者が、皮膚移植の対象になる。

 真皮が残れば表皮も再生が可能だ。だが、重いやけどでは再生は望めず、かえって壊死(えし)した皮膚が細菌感染の温床となり、感染が全身に広がったり、患部から体液が失われたりする。初期は血圧が急激に低下し、悪化すると、感染による敗血症や多臓器不全が起こり、命に関わる。

 このため近年は、深くまで傷んだ皮膚は早期に取り除き、保存皮膚で覆う方法が世界的に採用されている。移植した皮膚はいずれは拒絶されるが、しばらく感染や体液の減少を防ぐ。生命の危機を免れたところで、やけどのない箇所から患者自身の皮膚を採取して植え、皮膚を再生させる。

 問い合わせは、日本スキンバンクネットワーク事務局

2017/5/23 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201705/CK2017052302000174.html

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