http://toyokeizai.net/articles/-/173660

シュレッダー係へ配転は「社会的相当性欠く」

山田 雄一郎 :東洋経済 記者 2017年05月28日

「大勝利と言っていい和解をすることができた」。5月24日。プレカリアートユニオン(以下プレカリ)の清水直子委員長は厚生労働省内で開いた記者会見で声を弾ませた。

会見に同席した原告側弁護人の新村響子弁護士は、「全面勝利の和解。(被告である)会社側が『(原告の)社会的評価を損ない、心情を傷つけた』と認めて謝罪する内容。満足のいく解決金の支払いも得た」と解説した。

プレカリは、勤務先に労働組合がなくとも一人から入れる労組(=ユニオン)である。和解した相手は、「アリさんマーク」で知られる引越専業大手・引越社関東だ。

2度の配置転換後に「懲戒解雇」

話は約2年前の2015年にさかのぼる。社員の有村有氏(仮名・35歳。本裁判の原告)が業務中に交通事故を起こすと、会社から当然のように弁償を求められた。弁償額は会社が定めた上限の48万円。毎月1万円を給与から天引きするという。

だが、会社に雇われている従業員に、業務上で起きた物損を弁償する法的義務はない。疑問を持った有村氏は、勤務先に労働組合がなかったためにプレカリに駆け込んだ。

ところがプレカリ加入を境に、有村氏は短期間のうちに2度の配置転換を命じられる。外回り主体の営業専門職から内勤のアポイント部へ、そしてシュレッダー係。2度の異動を経て、有村氏の賃金は約4割減った。「営業成績がいいときには1回100万円もらえた賞与が1円になった」(有村氏)。

シュレッダー係は、不要になった書類を裁断機(=シュレッダー)にかける担当だ。書類は全国から送られ、シュレッダー係の作業は途絶えることはない。1日中、シュレッダーの前での立ち仕事になるという。

有村氏が着任する以前は、正社員にはさせたことのない業務だった。引越社関東は、非正規の作業員しか着用しないオレンジ色の制服の着用を正社員の有村氏に強いた。

http://toyokeizai.net/articles/-/173660?page=2

そして2015年6月。有村氏が引越社関東を訴えて記者会見を開くと、引越社関東は「(会見を開くなどして)会社を誹謗中傷した」「(会社の備品であるシュレッダーの写真を公開するなどして)会社の秘密を漏らした」などとする「罪状」と題した紙(通称「罪状ペーパー」)を、引越社のグループ全店に貼り出した。


引越社全店に張り出された「罪状ペーパー」。会社側は訴訟を経て、ようやくこの行為を謝罪した(写真:プレカリアートユニオン提供)
この罪状ペーパーは有村氏の顔写真付きで、社内報にも掲載。「皆さんもお気をつけください」と題した文書も全社員の自宅に送付した。文書は、クビになったら再就職もままらない世の中なので、家族を養っていくつもりなら反抗的な態度をとるべきではないとするものだった。

有村氏は、労組に加入する、会社を訴えるといったことをすると、自分のためにならないという「見せしめ」にされたのである。

その後、引越社関東のある管理職が、80人の社員の前で有村氏の「懲戒解雇」を宣言。別室で有村氏に対し「会社を訴えるようなことをするからだ。どうしようもないな」と解雇を通告した。

ところが、解雇無効の仮処分申請が東京地裁に出されると事態は一変。「罪状ペーパーに書かれた理由では懲戒解雇できない」との顧問弁護士からの助言を受けて、引越社関東はわずか2カ月足らずで有村氏に復職通知を送付した。

ただし復職後の業務は、解雇前のシュレッダー係のまま。会社から謝罪もなかった。そこで有村氏は営業職への復帰と名誉回復を求める訴えを復職後直ちに起こした。それが今回和解した訴訟である。

限りなく勝訴に近い「和解」

今回の和解で、有村氏は6月1日付で労組加入前の元の職場である営業専任職に復職する。これまで会社側は「事故を起こした者に運転はさせられない」と渋っていたが、有村氏に営業車両の使用も認める。月給などの待遇は配置転換前と同じに引き上げる。これからは残業代もきちんと払う。さらには有村氏に今回の解決金を支払う。

「2度の配転は社会的相当性を欠く」と認め、会社側は有村氏に謝罪する。罪状ペーパーを貼り出し、社内報に掲載して従業員宅に送ったことにより、有村氏の社会的評価を損ない、有村氏の心情を傷つけたことを認めて、謝罪する。

具体的には、有村氏の罪状を綴った紙面と同じスペースを社内報で割き、有村氏への謝罪文を掲載する。罪状ペーパーと同じ大きさの謝罪文をグループ各支店に貼り出す。

(続きはソースで)