http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/060507817/?i_cid=nbptec_sied_toppickup


工藤 宗介=技術ライター 2017/06/05 15:35

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/060507817/aist_01.jpg
PENフィルムに同インクを印刷、焼成した回路を用いたフレキシブルラジオと、ツバ内部にフレキシブルラジオを組み込んだ野球帽(左下)。(写真:産総研)

 産業技術総合研究所(産総研)は、野球帽のツバ内部に組み込んで、曲げられるウエアラブル・ラジオを試作した。スクリーン印刷と低温プラズマ焼結で形成した銅配線上にチップ素子を実装し、フレキシブルなラジオを作製した。試作した野球帽や実現技術の詳細を2017年6月7〜9日に開催される「JPCA Show 2017(第47回国際電子回路産業展)」(東京ビッグサイト)に出展する。

※ 産総研の報道発表資料はこちら。http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20170602/pr20170602.html

銅インクの印刷と焼成で低抵抗配線を製造

 今回開発したウエアラブル・ラジオは、フレキシブル配線板上に、表面実装用部品を実装して曲げられるラジオを製作した。野球帽のツバ内部に組み込むために、ラジオ回路の基板面積を45mm角以内になるよう小型化し、厚さを1.8mm以下に抑えた。ラジオのアンテナはツバの芯材を包む布地に縫い込んであり、着用者の好みによって帽子のツバを曲げてもラジオ放送を安定して受信できる。帽子をかぶったまま電源のオン・オフやボリューム調整、選局が可能だ。

 印刷技術を応用して低コスト・省資源で電子デバイスを製造する「プリンテッド・エレクトロニクス」は、IoT社会のニーズに応える技術として期待を集めている。ただし、技術的な課題がまだ多い。例えば、印刷配線材料として使われることが多い銀は、コストが高く、電流や電場の影響によって基板上を移動すること(マイグレーション)による短絡が起きやすい。IoTデバイスでも、従来のデバイス同様、配線材料には銅が望ましいが、印刷した銅を焼成して低電気抵抗の配線を得るプロセスは確立されていない。

 この課題を解決するため、産総研では銅インクの印刷と焼成によって低抵抗配線を製造する低温プラズマ焼結法(CPS法)の開発に取り組んでいる。CPS法は、熱平衡状態下で酸化銅が銅と酸素に分離する極低酸素状態にして純銅を作り、大気圧プラズマの作用で銅粒子を焼結する手法。180℃以下で銅粒子を焼結できるため、インクに還元剤や酸化防止剤を添加する必要がない。

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/060507817/aist_02.jpg
CPS法の概要(左)と、改良型電極を用いた低温プラズマ終結時における密閉容器内の様子(右)(図と写真:産総研)

今回のウエアラブル・ラジオでは、銅以外の有機成分が多く混在する量産印刷用のスクリーン印刷用銅ペーストでもCPS法で焼結できるように、プラズマ生成用の電極や電源などを改良した。従来使用していたポリイミドフィルムに代わり、耐熱性に劣るがより安価なポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムでも印刷・焼結できるようにした。

 今後はCPS法を高速化し、3年後には量産化にめどを付ける予定。印刷でのフレキシブル配線板の量産技術を確立させて多品種化を容易にし、小ロットから大ロットまで単価に差のない製造技術を提供することで、電子デバイスの更なる生活への浸透を目指す。今回の研究開発の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「ナノテク・先端部材実用化研究開発」(2010〜2013年度)の支援を受けた。