神奈川県鎌倉市の由比ガ浜海水浴場で計画された「相席居酒屋」形式の海の家について、同市は7日、店側が出店を取りやめることになったと発表した。

 県も巻き込む形で賛否の議論を招いた一連の騒動は収束に向かうことになったものの、「海水浴場は誰のものか」という重い問いかけを残した。

 ◇「草食系」の若者応援

 市によると、同海水浴場で海の家を営業する業者らで作る由比ガ浜茶亭組合から、「店側の自主的な判断で撤退することになった」という報告があったという。

 1日からオープンさせる予定だった都内の業者によると、この海の家は初対面の男女が同席でき、女性は飲み物や席料が無料なのが特徴。アルコールも扱うことから未成年者を入店させないように、身分証明書を確認するとしていた。
 この業者は全国で約70店の相席居酒屋を展開しており、海の家経営に進出するのは初めて。業者は出店の狙いについて「未婚者の拡大に歯止めをかけるため、“(恋愛に奥手な)草食系の若者”を応援するとともに、チェーン店のPRにもつなげたい」としていた。

 これに対し、鎌倉市は「風紀の乱れや過度な飲酒につながりかねない」として、6月28日に出店の取りやめを申し入れた。店側は当初、拒否する姿勢を見せていたものの、インターネット上で批判を受けるなどしたこともあり、撤退に追い込まれた。

 ◇ビーチを守る

 出店中止を求めて強硬姿勢で臨んだ市には、「地域が一丸となって、家族で楽しめるファミリービーチ作りを目指してきた取り組みを後退させることはできない」という思いがあった。

 一帯の海水浴場ではこれまでも、海の家が大音量で音楽を流す「クラブ化」のほか、砂浜での飲酒などが問題視されてきた。市も2015年、海水浴場のマナーアップ条例を改正して規制を強めてきた経緯がある。

 市によると、市民からは今回の市の姿勢を支持する声が多いという。「海は泳ぎに来る場所。健全であってほしい」「婚活支援は海の家以外で行ってもらいたい」などの電話や電子メールが15件寄せられる一方、「営業をやめさせるのは時代錯誤」といった出店容認派は2件にとどまっている。


 ◇ルール化の行方は

 一方で、市は景観の観点から店の看板の色や大きさを確認していたものの、営業形態までは調べていなかった。このため、実態に気づいた市の申し入れは開店のわずか3日前となり、松尾崇市長は「『相席』と聞いても分からなかったのは反省点」と述べた上で、海の家に対する規制を強化する条例やルールづくりを検討する考えを表明した。

 海の家の出店を許可した県は、対応の見直しについて「今のところは考えていない」(黒岩知事)と静観する構えだ。市議会で問題を取り上げた日向慎吾市議は「鎌倉の海のイメージが損なわれないように、事前に審査する仕組み作りが必要だ」と指摘している。(福浦則和)

http://yomiuri.co.jp/national/20170707-OYT1T50138.html
撤退することになった「相席居酒屋」型の海の家(神奈川県鎌倉市の由比ガ浜海水浴場で)
http://yomiuri.co.jp/photo/20170707/20170707-OYT1I50047-1.jpg