九州北部で5日に発生した記録的大雨で甚大な被害の出た福岡県朝倉市では、最多となる11人の死亡者が確認された。気象庁は当時、「数年に1度」の雨とされる「記録的短時間大雨(記録雨)情報」を周辺で計15回発表したが、最終的に特別警報を出したのは雨のピーク後で、市全域に避難指示が出たのは、さらに後だった。市幹部からは「検証が必要だ」との声が上がる。

 ■想定外…1時間に129ミリの雨

 気象庁は5日午後1時14分、朝倉市周辺に大雨洪水警報を発表。同28分にはレーダー解析で1時間110ミリの猛烈な雨が市内で検出されたとの記録雨情報を出した。「かなり突発的に雨量が増えた。ここまで急激に事態が進むとは思っていなかった」と担当職員は振り返る。避難所の開設準備などを経て、警報から約1時間後の同2時15分、ようやく市は高齢者などに避難を呼びかける「避難準備情報」を発令した。

 さらに市は、土砂災害警戒情報を受け、同26分、全域に避難勧告を発令。同地点で1時間の雨量として観測史上1位を更新する129・5ミリに見舞われたのは同3時38分だった。

 ただ、「数十年に1度」規模の災害発生の恐れがあるとして気象庁が大雨特別警報を発表したのは、時間雨量のピークを過ぎた同5時51分。最終的に市が全域に避難指示を出したのは同7時10分だった。

 内閣府や気象庁によると、大雨警報は避難準備情報、大雨特別警報は避難指示の基準とされる。両基準の間に当たる、一般住民が避難を始める避難勧告の基準は複数あるのが現状で、防災関係者の間では「警報基準と特別警報基準の間に差があり過ぎる」との声も出ている。

 ■「行動指南型情報に頼ってはいけない」

 福岡県での大雨洪水警報から大雨特別警報までの約4時間半の間、朝倉市周辺では記録雨情報が11回も出た。「記録雨が複数回連発する事態は、警報から1段階上がったと考えた方がいい」(気象庁関係者)との指摘もある。

 気象庁の松本積主任予報官は「特別警報が出るときはすでに災害が発生し、逃げられない恐れがある。特別警報を待たずに情報の組み合わせで先に避難してもらいたい」と説明する。

 東大大学院の片田敏孝特任教授(災害社会工学)も、「近年、判断する時間が十分にないまま急激に起こる災害が多くなっており、従来の行動指南型情報だけに頼ってはいけない」と住民側の主体的な行動を求め、「現在はリアルタイムに場所を限定して危険度が分かる情報もあり、積極的に利用することが大事」と話した。(市岡豊大)


2017.7.8 22:20産経新聞
http://www.sankei.com/smp/affairs/news/170708/afr1707080017-s1.html