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 消費税8%分の利益を狙った金の密輸事件が相次ぎ、持ち込む手口も多様化している。香港で買い付けた金塊を韓国経由で日本に持ち込み売却するのが主なルート。一般人がアルバイト感覚で運び屋をするケースもあり、取り締まる税関当局は頭を悩ませている。【道永竜命】

 6月、愛知県岡崎市の主婦ら5人が、金を下着に隠し密輸しようとしたなどとして、関税法違反容疑などで逮捕、起訴された。

 県警や名古屋税関などによると、5人は近所の主婦仲間。昨年12月、韓国籍の李芳子被告(66)=岡崎市=の声掛けで韓国に渡り、帰り際に仁川空港の出国待合スペースで、別の韓国籍の女からスマートフォンほどの大きさの金塊10個と、金塊を隠すポケットが縫い付けられたタンクトップやスパッツを受け取った。

 トイレで着替えて搭乗し、到着した中部空港で4人は税関のチェックをすり抜けた。税関職員が最後の1人を「細身で小柄なのに服の膨らみが不自然」と見とがめ、発覚した。

 李被告は3年前から8回ほど密輸を繰り返していた。1回当たりの報酬は10万〜20万円で「遊びにも行けるし小遣いも稼げる」と供述したという。拳銃や薬物と違い、金塊を持っているだけでは罪にならない。税関は「非常に安易な気持ちで一般の人が運び屋をやっている」と分析する。

 金の価格は変動するが万国共通。それでも密輸が絶えない背景には、金の取引に消費税がかかるという世界でもまれな日本特有の制度がある。20万円以上の金を海外から持ち込む場合、税関で消費税8%を納めなければならない。その代わり、売却時は8%分を上乗せした金額で買い取ってもらえる。非課税で購入できる香港などで金塊を仕入れて密輸し換金すれば、消費税分が利ざやになる。

 購入資金があって金の密輸を繰り返せば、多額の利益が得られるため、手口も多様化している。航空機の旅客を運び屋にするだけでなく、スーツケースを改造して仕込んだり、土産物のキムチに紛れ込ませたりする例もあった。佐賀県唐津市では金塊約206キロが小型船で漁港に密輸される事件があり、かつての覚醒剤密輸と同様に洋上取引が行われている実態が明るみに出た。

 名古屋市で金塊を取り扱う業者は200万円以上の取引の場合、マイナンバーの提示を求めるなどし、正規品しか買い取らない。「密輸品の買い取りは店側のリスクが大きいので、訳ありの品を扱う独自ルートがあるのでは」と推測する。

 業界関係者は「金の密輸を計画する人物は、運び屋と同じように売るだけの人物を用意して、『トカゲのしっぽ切り』のように使っている可能性もある」と指摘する。

 ◇消費税8%を機に急増

 金の密輸は消費税率が5%から8%になった2014年4月以降、急増している。税関当局によると、13年7月〜14年6月は全国で8件だった摘発が、14〜15年の同期で177件、15〜16年の同期で294件に達した。

 密輸入先は香港が5割を占め、韓国が3割と続く。香港は日本から比較的近く、金の購入や海外への持ち出しに制限がない。香港から韓国を経由するケースが目立つのは、密輸を怪しまれないようにしているとみられる。

 15〜16年の摘発294件中287件が航空機で運ばれた。税関は旅客の検査を強化するほか、入国者が記載する「携帯品・別送品申告書」に4月から、「1キロ以上の金地金などを持っていますか?」との文言を加え、摘発時に言い逃れができないように改めた。

 密輸した金塊は刑事処分を受けなければ、覚醒剤などと異なり、運んだ人物の手元に戻る。税関内部では取り締まり強化のため「金塊も薬物と同様に原則没収すべきだ」との声が上がる。

 入国検査は円滑な手続きが大前提で密輸摘発を目的に全員検査することもできない。検査に携わる職員は慢性的に不足し、捜査関係者は「金の密輸が減る要素はない。今後も高止まりのまま推移するだろう」と警戒する。