日本の最西端の与那国島(沖縄県与那国町)にある陸上自衛隊の与那国駐屯地が開設から一年以上たち、報道陣に公開された。陸自は隊員約百六十人とその家族が増えたことによる島の活性化を強調する。ただ、部隊が打ち出した「島民との融和」がかえって島の自衛隊色を強める結果になり、町の自治にとってマイナスの側面が出ている。 (編集委員・半田滋)

 与那国駐屯地は昨年三月に開設され、付近を航行する艦船や航空機を監視する沿岸監視隊が置かれた。

 島の人口は開設前の千四百九十人から千七百二十六人(五月末)に増え、人口減少にブレーキがかかった。子供を伴う家族連れの隊員が移住し、三校ある小学校のうち与那国小は、複数の学年の児童が一つの学級で教育を受ける「複式学級」が解消された。

 住民税は約六千万円増収。自衛隊用地として入る町有地の賃料で小中学校給食の無償化が実現した。

 隊長兼駐屯地司令の塩満大吾二佐は「昨年八月の駐屯地夏祭りには約六百人の島民がやってきた。自衛隊は温かく迎えられ、理解を得られつつある」と話す。

 ただ歓迎一色ではない。自衛隊配備の賛否を問う住民投票が、駐屯地開設の約一年前の二〇一五年二月にあり、島は二分された。結果は小差で賛成票が上回ったが、わだかまりは残る。反対派の飲食業、猪股哲さんは「賛成派の住民は今でも目を合わせてくれない。ぎくしゃくした空気に嫌気が差し、島を離れた人もいる」と話す。

 島には三つ集落があり、町の要望を受けて隊員の家族住宅は集落ごとに建設された。全隊員は九つある自治会にほぼ均等に分かれて加入している。

 今年五月のことだ。町役場がある祖納(そない)地区の東公民館で自治会の会合があった。出席した二十人のうち、隊員とその家族が十一人を占め、地元住民の参加は九人にとどまった。

 同地区に住む隊員は二十二世帯なのに対し、地元住民は百五十六世帯だから住民側の出席率は極めて悪い。

 地元の団体職員、喜久山和弘さんは「自衛隊反対の人は最初から会合に来ない。賛成派の中でも『自衛隊になじめない』と言う人や『自衛隊に任せれば何とかしてくれる』と言う人もいる」。自衛隊が地元に溶け込もうと努力する一方で、住民との距離が広がったり、自衛隊への依存で地域の自立が損なわれたりする側面があると言うのだ。

 台湾との交流を通じて「島おこし」を図る町独自の自立ビジョンは自衛隊配備後、影も形もない。台湾の花蓮(かれん)市に置いた町の出先事務所は閉鎖されたままだ。

 与那国の事情に詳しい佐道明広・中京大教授は「人口増や短期的な経済効果は一時的なものにすぎない。島が衰退したのは産業がないためで、自衛隊に頼り切り、振興策に取り組まないとすれば弊害は大きい」と指摘する。

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