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世界で最も北にある長崎県対馬市沖のサンゴ礁で、海水温の上昇によると見られる「白化現象」が国立環境研究所などの調査で初めて確認され、専門家は「この海域での白化は異常で、サンゴの生息域が脅かされる可能性がある」と指摘しています。
国立環境研究所などは去年、サンゴが白くなり、死滅するおそれが高くなる「白化現象」が、海水温の上昇によって、沖縄のサンゴ礁で大規模に確認されたことを受けて、去年12月に対馬市豊玉町沖のサンゴ礁を調査しました。その結果、全体のおよそ3割で白化が確認されたということです。

研究所によりますと、対馬周辺の海域では去年の7月と8月の海水温が、平年より1度から2度ほど高くなって30度を超える日が続いていて、対馬への台風の接近が少なく海水がかき混ぜられなかったことや、エルニーニョ現象などが影響したと見られるということです。

対馬沖のサンゴ礁は、現在確認されている世界のサンゴ礁の中で最も北にあり、この海域で海水温の上昇によると見られる白化が確認されたのは初めだということです。

国立環境研究所生物・生態系環境研究センターの山野博哉センター長は、「通常、水温が低いはずの北の海域で白化が確認されたことは異常事態だ。今後も、海水温が高い状態が続けばサンゴの生息域が脅かされる可能性がある」と話しています。
白化 生態系の崩壊も
サンゴの体内には、「褐虫藻」と呼ばれる植物プランクトンが共生し、光合成を行ってサンゴに栄養を供給していますが、海水温が30度を超える日が2週間から1か月ほど続くと、褐虫藻は光合成ができなくなり、サンゴの中から消えていきます。このため、サンゴの骨格の石灰質が透けて白く見えるようになる「白化」が起きます。海水温が高い状態がさらに2週間から1か月ほど続き、褐虫藻が戻らなければ、栄養を得られなくなったサンゴは死滅します。サンゴが死ぬことによってサンゴ礁が育む生態系が崩れ、漁業資源や観光資源の枯渇につながることが懸念されています。
「予想以上に深刻」
気象庁によりますと、日本の近海では、この100年間で海水温が平均で1度以上、上昇していて、沖縄の周辺海域では去年、石垣島沖の国内最大のサンゴ礁「石西礁湖」で、白化現象が起きておよそ7割のサンゴが死んだことが確認されました。国立環境研究所は、世界が温暖化対策を取らずにこのままのペースで二酸化炭素を排出し続けた場合、九州や四国の周辺でも海水温が上がって白化現象がさらに広がり、2070年代には日本近海のサンゴが全滅するおそれがあると予測しています。

こうした事態を受けて環境省はことし4月、サンゴの保全に向けて被害状況の正確な把握や白化現象を予測する手法の確立、さらに優先的に保全すべき地域の特定など、今後の取り組みを盛り込んだ緊急宣言を採択しています。

国立環境研究所生物・生態系環境研究センターの山野博哉センター長は、「予想以上に気候変動の影響は深刻で、今まで海水温が低いため生息に問題がないと思われていたような場所のサンゴでも、保全の対象にする必要がある」と指摘しています。
サンゴ礁では対馬沖が世界の北限
国立環境研究所によりますと、サンゴは最も寒い月の水温が18度以上の暖かい海域に生息していて、日本の近海では、太平洋側は千葉県、日本海側では新潟県の周辺海域でも生息が確認されていますが、数千年かけて形成されるサンゴ礁としては、平成24年に認められた長崎県対馬市沖のサンゴ礁が世界の北限に当たります。

7月18日 5時15分