>>1の続き

<瞼を失い眠ることさえ困難>

2014年12月のある日、自宅のドアを叩く音がして、そこからクリストフェロスさんの人生は大きく狂っていった。クリスマスプレゼントの配達だと思った彼は、普段通りドアを開けた。するとそこに立っていたのは見知らぬ男だった。「これがお前への贈り物だ」男はそういうといきなり、手にしていたビーカーの硫酸を彼の顔に浴びせた。

「着ていたTシャツは上から下まで、まるで消えていくようにぼろぼろに分解していった。そして言葉では言い表せない痛みが襲った」

クリストフェロスさんは事件当時と同じ家でいまも、妻と4歳の息子と暮らしている。

クリストフェロスさんは直ちに病院へと搬送されたが、医師は朝までもたないかもしれないと家族に告げた。その後も数週間、感染症の危険性から死の淵に立たされた。

体の他の皮膚を使って、クリストフェロスさんの顔面の90%は再建された。すでに12回ほど外科手術を受けたが、今後も受けなければならないだろうと彼は言う。

顔面の傷が収縮するのに伴って、これまでに瞼を3度失い、その度に眠れなくなったという。

「瞼がなくなるということはこれまで体験した中で最も耐えがたい苦痛だった。目を閉じることができず、光から逃れられないのだから」

犯人は家族が性的暴行の被害に遭い、復讐のため犯行を思い立ったという。だが住所を間違えて、クリストフェロスさんの家を訪れた。

有罪判決を受けた当初、犯人に言い渡された量刑は終身刑で、最低でも8年服役することとされた。

だがクリストフェロスさんは、犯人が上級審で禁錮16年に減刑され、8年服役した後に仮釈放される可能性ができたことを、後に知った。

「3人の判事が、犯人は社会にとって危険な存在ではないとの理由から、終身刑は減刑されるべきとの結論に達したという。そこが最も不可解な点だ。計画的な犯行だったというのに」

<身近な製品が凶器に>

酸性物質は、店頭でお金さえ支払えばだれでも簡単に購入できる排水溝やトイレの洗剤といった日用品にも含まれている。

ある調査によると、複数のウェブサイトで96%が硫酸でできた製品を販売しているという。硫酸はクリストフェロスさんの襲撃にも使われた物質だ。1リットルあたり15ポンド(約2200円)もしない。

「1リットルあれば10人かそれ以上の人生を破滅させることができる。そして誰でも買える」と、クリストフェロスさんは指摘する。

被害者の整形手術を務めたことがある医師によると、腐食性物質による傷は回復までに何年もかかり、数えきれないほどの手術を必要とするという。

治療が終わっても、被害者の人生には大きな傷跡が残る。

「外見の変形など一生回復できない傷となることもある」と語るのは、英国整形・再建・審美外科医協会の広報担当者であるピーター・ジェウルスキ教授。同教授は今年だけで20人の患者の治療にあたった。

事件後、クリストフェロスさんはけがのため、地元の起業家としての仕事を大幅に減らさざるを得なかったという。「酸攻撃の影響は、一生抱えていかなければならない」

(Cassandra Garrison記者 翻訳:新倉由久 編集:山口香子)

終わり