そのとき水中で見てしまった。
人の手が、足首を掴んでる。そいつの頭も見えた。
驚愕と恐怖でわけわかんなくなり、はっきりしないんだが、一瞬、顔が見えて、それは男に見えた。
俺はそのとき半分以上発狂しそうになったと思う。振りほどこうとして渾身の力で滅茶苦茶に暴れた。

気がついたら、荒い呼吸でむせながら、岸に向かって泳いでた。
足は自由になってた。岸に上がって、恐くてふわふわしながら、家に帰った。
夜、おやじに話した。おやじは、難しい顔をして少し黙ったあと、『危なかったな。お盆は気をつけろ。』とだけ言った。

一瞬だけ見えた、水中で目の辺りが黒く虚ろな空洞みたいに見えるあの顔(?)は、今も焼き付いて忘れられないトラウマ。