※続きです

■母の病気で「アニメ漬け」の人生が一変

これまでを振り返ると、アニメやゲームにハマっていた人生が一変したのは30歳の時だったという。
大学を卒業し一般企業に就職をしたのだが、母が病気で倒れたため、実家に戻って家業を継ぐことになった。

「もともと家業を継ぐ気ではいたんです。
ウチは、7、8人のパートさんを雇う結構な敷地面積のある農園なんで。
ただ僕が大学を卒業する時には親父もお袋もまだ現役だったし、社会勉強のために一度は就職をしたほうがいいかなと思ったんですよ」

ただ、行きたい会社に就職できたわけではなかった。
泰典が大学を卒業する時は就職氷河期であり、志望したところは軒並み不採用。
やりたい仕事に就いたわけではない。母親が倒れ父親から、「会社を辞めて、家業を手伝ってくれ」と言われた時に、勤めている会社を辞めることに未練はなかったという。
こうして都内から地元に戻ったのだが、田舎で農業を始めてみると生活がいっぺんした。
隣近所とつきあったり、組合の会合に出たりと、よくも悪くも人間関係が濃くなった。

「祭りや組合の会合の後は、必ず酒盛りになる。
もともと田舎育ちだし、酒を飲むのは好きなので、それが決して嫌ではなかったんですけど」
泰典の人なつっこさは、この環境から作られたのかもしれない。

「ただひとつ、どうしても馴染めなかったのが、そうした飲み会の後、2次会は男だけでキャバクラとか、お姉ちゃんのいる店に行くことでした。
隣についてくれたお姉ちゃんと、みんなデレデレしながら楽しそうに話している。何を話しているかというと、パチンコやギャンブルの話。
あと、“こういう土だと野菜や果物がよく育つ”みたいな培養土の話。
そんなこと聞いても面白いわけがないのに、女の子たちはみんなキャッキャしながら話を合わせている。
“商売だからニコニコしているんだろうな”と思うと、“よくやるなぁ〜”と、僕は逆にシラケていました」

「お見合い写真を見たら、2つ年上だったけれど、綺麗な女性だったので“このへんで結婚も悪くないかな”と思って、見合いをすることにしたんです」
お見合い場所は、地元の割烹料理屋の離れだった。
相手の女性は着物こそ着てはいなかったが、仲人、両家の両親も揃った昔ながらの見合い形式だった。
「お見合いもはじめてなら、女性と面とむかって話をするのもはじめて。
まして、それが結婚するかもしれない相手なわけで、もうガチガチでした」

話を持ってきた会長が仲人となり、場の空気をなごませようとふたりに話をふったり、冗談を言ったりするのだが、女性はニコリともしなかった。
最初は緊張しているのかと思ったが、料理が運ばれてくるとそれを黙々と平らげていく。
意にそぐわない席に無理やり連れてこられ、不機嫌なのがありありと読み取れた。
「最初は、僕も一生懸命に話をしていたけど、後半は“早く帰りたいなあ”と思っていました」

結局、その見合いは女性からお断りがきた。
その後も、その会長が3つのお見合い話を持ってきたので、計4回お見合いをした。

■4人とお見合いし、結婚したい気持ちが萎えた

2回目のお見合いは、地味で大人しい女性。お見合いの後に、1度デートをしたが、会話が続かなくて30分お茶をして別れた。
それも、女性からお断りがきた。
3回目のお見合い相手は、特別美人というわけではなかったが、明るく楽しい人だった。
しかし、2回デートをしたところで、なんとなくお互いに連絡を取らなくなり、うやむやに終わった。

それから1年後くらいに、4人目の女性を紹介された。
「かなり丸い方でした。小太りというレベルを超えていた。ご両親とも丸かった。僕はどちらかといえば痩せ型のほうが好みなんです。
それでもなんとか場をとりなして話をしていたんですけど、食事を終えたらプカーッと、目の前でタバコを吸いだしたんですよ。びっくりしました」

4回目の見合いは、終えてすぐに泰典のほうから断りを入れた。
「そうしたら世話をやいてくれていた会長にメチャクチャ怒られた。『おまえ、そんなんじゃ、いつまでたっても結婚出来ないぞ』って。
だけど、僕はタバコを吸わないし、まだ周りが食事をしているのに、断りもなしにプカーッとタバコを吸うような女性とは結婚したくないですよ」

こうして4人と見合いをするうちに、“女性と恋愛をする”“結婚をする”という気持ちはすっかり萎えてしまった。
泰典がいうところの、まずます恋愛がこじれていった。

※続きます ..