“マネタリー・ベースを激増させれば「インフレ期待」を醸成できる。”

「期待に働きかける」政策を早くから推奨したのは米国の経済学者ポール・クルーグマン。
クルーグマンは1998年の論文で、「高齢化が進む日本では将来への不安から、
超低金利でも需要が喚起されず、超過供給に陥っている」と診断した。
インフレが進めば貨幣価値は目減りするので、将来のインフレを人々が確信すれば、
需要がでてくるはずだと言う。
そして、クルーグマンは「中央銀行が無責任な行動をとればいい」という奇抜な理論を唱えた。
 「物価の番人」である日銀がインフレを抑えこむと人々が信じるかぎり、インフレ期待は盛り上がらない。
だから、デフレ解消の鍵は「無責任な日銀」をみんなに確信させることだ、ということらしい。
それを馬鹿真面目に実行してしまったのが安倍と黒田。
消極的な白川方明を攻撃し、無責任な日銀に豹変することで「インフレ期待」に火をつけようとした。
だが、リフレ派の理論的な支えとなっていたクルーグマン氏は2015年の秋、
期待に働きかける政策は無効だったことを認めて、珍説をあっさり引っ込めた。
浜田爺よりも一年も早く白旗を揚げていたわけだ。

確かに日銀の信用を失墜させることには成功しただろう。
だが、中央銀行による国債買い占めはさまざまな方面にリスクを発生させ、
日銀は経済不安の火種とさえみなされるようになってしまった。
黒田総裁はこれまでマイナス金利については、
「検討していないし、考えが変わることもない」とずっと否定し続けていた。
それにもかかわらず、黒田総裁はマイナス金利の導入に動いた。
利下げや量的緩和をしたけれど、むしろ泥沼化してしまい、日銀はそこまで追い込まれてしまったと考えられる。

マネタリー・ベースが増えるとインフレになるという構図は、低成長の今は起こらない。
むしろ局所的なバブルによって市場を歪めてしまうだけだった。
債券価格は天井圏に張り付いており、将来のその暴落リスクは半端でない。
大量にばら撒いたマネーがいつ暴れだすのか、それは神のみぞ知ることだ。