『ウルトラ・ダラー』 手嶋龍一
「核の時代にあって究めるべきはキューバ危機の戦訓だ。
アメリカの情報当局は実に優れた仕事をした。
キューバに戦略核ミサイルが持ち込まれる予兆を累次にわたってつかみ、上空からの偵察飛行でついに動かぬ証拠をつかんでいる」

「当時、アメリカの四軍はキューバ撃つべしの強硬論一色だった。
こうした情勢では、情報組織というものは、軍部の強硬論を裏書きするインテリジェンスばかりを選んで、政治指導部に提供しがちだ。
だが、アメリカの情報当局は、キューバに進駐したソ連のミサイル部隊が核弾頭をすでに装着したのか、いまだ確認ができずといい続けた。
それは勇気のいることだった。
空軍のトップ、カーチス・ルメイ将軍は、核弾頭の有無にかかわらず即時空爆を主張した。
だが、考えてもみたまえ。もしソ連が核弾頭を装着していれば、アメリカの先制攻撃は核の報復を招いたかもしれんのだ」