■五輪・パラ、ボートとカヌーの「聖地」に

 東京湾に浮かぶごみの埋め立て地「中央防波堤埋立地(中防)」(約509ヘクタール)の帰属を巡り、東京都江東区と大田区の争いが激化している。中防では2020年東京五輪・パラリンピックのボートとカヌー・スプリントの会場「海の森水上競技場」の整備が進む。両区は7月、中防が将来的に「ボートとカヌーの聖地」となることを見据えて帰属を主張し、地方自治法に基づく調停を小池百合子知事に申請。東京大会前の決着を求めた。【柳澤一男】

■都に調停を申請

 中防は「内側」と「外側」の2区画に分けられ、都が1973年から埋め立てを始めた。内側は96年に埋め立てが終わり、造営中の都立「海の森公園」や都の出先機関などがある。21年まで埋め立てが続く「外側」ではコンテナふ頭の整備も進むが、内側も外側も帰属が決まっておらず、正式な住所はない。

 当初は、湾岸に面する5区が中防の編入を希望。内側の埋め立てが終わる96年までに5区の協議で帰属が決まるはずだった。ところが江東、大田両区が「全ての帰属」で譲らず、港、品川、中央の3区は02年までに協議から撤退。問題は宙に浮いたままになっている。

 「全ての帰属」を主張する理由について、江東区の担当者は「埋め立てられたごみは区内を通って運ばれ、住民は悪臭やハエの大量発生などに苦しんできた。区民の犠牲の上に造成されたのだから当然」と説明。一方の大田区の担当者は「中防付近はかつてのりの養殖場で、ほとんどを大田区の漁協が運営していた。中防とは社会的、経済的に密接な関係がある」と一歩も引かない。

 東京大会では、内側と外側の間の水路に海の森水上競技場が建設中で、内側には馬術の一部競技の仮設会場になる「海の森クロスカントリーコース」も設置される。特に海の森水上競技場は大会後も取り壊されずに使用されるため、20年までに住所が決まれば、編入した自治体は世界に向けて「ボートとカヌーの聖地」としてアピールできる。

 こうした思惑は両区とも同じで、両区議会は歩調を合わせて6〜7月の議会で調停での決着を決め、7月18日にそろって都に申請した。

 都区政課によると、今後は有識者3人の自治紛争処理委員が、90日を目安に調停案を示す。過去に東京・お台場の埋め立て地を巡って調停が申請された際は「江東区75%、港区17%、品川区8%」の帰属で解決したが、これまでの経緯から両区が分割帰属案に同意するかは不透明だ。

 調停が不調に終われば裁判も想定されるが、都区政課の担当者は「歴史的な背景があるので、容易に決着するか分からない」と話している。

配信2017年8月16日 11時35分
毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20170816/k00/00e/040/238000c