真珠をテーマにした三重県鳥羽市のレジャー施設「ミキモト真珠島」で、5年ぶりの新人海女となる樋口未来さん(19)=同県志摩市=がデビューした。かつて島で盛んだった海女漁を、観光客向けに実演。「多くの人に伝統的な漁法を伝えたい」と意気込む。

海女漁の実演で海に潜った樋口さん=共同
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釣り好きの父の影響で幼い頃から海や水泳に親しみ、魚介類も好物だった。中学3年の時に放送されていたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」を見て海女に関心を持ち、高校はダイビングの資格も取得できる志摩市の水産高校に進学した。進路相談で担任の教師から、施設を運営する「御木本真珠島」が海女を募集していると聞き、就職を決めた。

島では1893年に、宝飾品大手のミキモト創業者の御木本幸吉が世界で初めて真珠養殖に成功。かつては、真珠ができたアコヤガイを海底から採ってくるだけでなく、真珠を作る母貝を集めて真珠の元となる「核」を入れ、その貝を海に戻すのも海女の仕事だった。赤潮発生時に貝を安全な場所へ移すのも海女で、養殖には欠かせない存在だったが、技術の発達とともに活躍の場は徐々になくなっていった。

「人魚だと思って泳いでみて」。今年4月の入社以降、先輩から指導を受けて練習を重ねた樋口さん。水深5〜6メートルの海中で、最初は5秒ほどしか続かなかった息は、やがて30秒ほど続くようになり、会社の担当者も「余分な動きがなくなってきた」と言うほど上達。予定より1カ月早い6月、初舞台に臨んだ。

磯着と呼ばれる真っ白な木綿の衣装をまとい、貝を採る姿を披露。何度も潜って海底から貝を持ち帰り、客に見せたときには「やっと採れた」と安心した。

今の課題は、海面に顔を出した海女が口笛を吹くように口をすぼめてゆっくり息を吐く独特の呼吸法「磯笛」の習得。体への負担が少なく、楽に長く潜れるようになる。「先輩たちに少しでも近づきたい」と話す樋口さん。希望を胸に、きょうも海に向かう。〔共同〕

配信2017/8/28 13:45
日本経済新聞
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