月刊正論2017年4月号
つまり「極右政党」とは… 「移民」推進派の不都合な真実
青山学院大学教授 福井義高
http://egg.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1489277376/937-938n
     ・・・(略)・・・
 しかしながら、移民の経済分析の泰斗、ハーバード大学のジョージ・ボーハス教授が、2016年に公刊した
『我々は労働者を望んでいた』(We Wanted Workers)で、いみじくも指摘したように、美辞麗句を取り払い、
それがなんであるかを直視すれば、移民とは「ひとつの所得再分配政策」である。したがって、この所得再分配
で損する側となる先進国の労働者が移民に反対するのは、人種差別や排外主義とは基本的に関係ない。
「北[先進国]の労働者は、単に新世界秩序から利益を得られないのだ」。「政治的に正しい物語は間違っている。
移民は全員にとって良いわけではない」。
 長年の移民経済効果の実証研究で明らかになったのは、途上国からの移民流入が、移民の取り分を除けば、
先進国の経済規模に全体としてほとんど影響を与えないことである。移民拡大は、経済成長政策ではなく、
むしろ純粋な所得再分配政策であって、経済のパイを拡大せず、もともといる国民の中ではパイの配分を変える
だけなのである。勝者は途上国からやって来た移民と先進国のエリート、敗者は先進国の大衆である。
 こうした不都合な真実は、移民促進というエリートのコンセンサスと相容れない。そのため、オックスフォード大
のポール・コリアー教授が指摘しているように「社会科学者は移民が誰にとっても良いものであることを示すべく
全力を尽くしてきた」(『エクソダス』)。
 経済学者も例外ではない。ボーハス教授が前掲書で具体例を挙げながら指摘しているように、移民がもたらす
賃金低下などの負の効果を否定するため、実証「研究」において不可解な仮定を設定し、データを操作することが
常態化している。
 カリフォルニア大デービス校のジョヴァンニ・ペリ教授らは、1980年にマイアミに殺到した大量のキューバ移民
の経済効果に関する論文で、思わず経済学界の「掟」を漏らしてしまった。移民が賃金や雇用にもたらす負の効果
は存在しないと「合意することが、経済学界の最終目的(finalgoal)であると我々は考える」と。
 キューバから子供時代に難民として米国にやってきたボーハス教授は、この経済学界の「進軍命令」(marching
orders)を痛烈に批判する。「こうした動員令は、まさに遠い昔のハバナの革命学校におけるマルクス・レーニン
主義者の教師たちを思い出させる。彼らは信じていた。残されたなすべきことは、他のすべての人々も同様に信じる
よう強いることであった」。ボーハス教授の指摘を受け、著者たちはまずいと思ったのであろう、論文の最新版では
当該箇所が削除されている。
 外国人労働者は自国労働者がやりたがらない仕事をしてくれるので、移民は不可欠という主張がある。しかし、
ボーハス教授が指摘するように、移民は自国民がやらない仕事をしているのではなく、現在の賃金ではやらない
仕事を行っているのだ。不法移民を一掃した米国のある地域で実際起こったように、外国人労働者という選択肢が
なくなれば、自国民がやりたくなる水準まで賃金は上昇する。あるいは、経営者は技術革新で乗り切ろうとする。
 実際、それは高度成長期の日本で起こったことである。戦前の中流家庭では当たり前だった「女中」が賃金高騰で
ほとんど姿を消したことからもわかるように、「人手不足」にもかかわらず、移民を入れなかったことで、高学歴エリート
と大衆の賃金格差が縮まり、世界一のロボット先進国となった。近年ますます拡大する経済格差が問題視されている
米国でも、移民を制限していた20世紀半ばには、賃金格差縮小が進んでいたのである。