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Andray Abrahamian

[31日 ロイター] - 北朝鮮と米国などの国連軍が朝鮮戦争の休戦協定を締結してから64年を経て、米国務省は米国人の北朝鮮渡航を禁止した。通達は8月2日に官報に掲載され、9月1日に発効する。

渡航禁止は、トランプ大統領が手にしている悪い選択肢の中でも、比較的選びやすいものだ。

北朝鮮が29日に日本上空を通過するミサイル発射実験を実施した後も、トランプ大統領は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と語った自身の同国への警告について、詳細を明らかにしていない。とはいえ、渡航制限は、この後に何が起こるかのヒントになりそうだ。

北朝鮮への渡航を制限するのは、過去10年間に、北朝鮮が滞在中の米国人15人前後を様々な理由で拘束し、米政府に譲歩を迫る材料に利用してきたからだ。誰かが拘束されるたびに、米側は時間や資源、政治力を使って米国人の解放を要請するのがパターンになっていた。

最近では、7月に米国人大学生のオットー・ワームビアさんが北朝鮮から昏睡状態で解放され、数日後に米国の病院で死亡するという悲劇があった。このことは国務省が渡航禁止を実現する追い風となった。

国務省の動きとは別に、ワームビアさんが死亡する以前から、米議会では米国人の北朝鮮渡航を禁止する法案が超党派議員から提出されていた。この法案が、米国務省による渡航禁止の通達との関係も含めて、今後どうなるかは明らかでない。

だが、渡航禁止によって、何が達成できるのだろうか。

米政府には主に3つの目的がある。まず、米国人訪問者が北朝鮮によって交渉材料に使われる事態を予防すること。そして、米国人旅行者がもたらす外貨(米ドル)を絶つこと。さらに、北朝鮮政府の行動は受け入れられないとうメッセージを発することだ。

最初の目的は、部分的に達成されるだろう。北朝鮮を旅行ビザで訪問する米国人は年間1000人近くいるが、これらの人々が北朝鮮当局の手に落ちるリスクは、今回の渡航禁止によってただちにゼロになる。

だがより詳細に見ると、2009年以降に拘束された15─17人の米国人のうち、旅行ビザで渡航していたのは4人程度にすぎなかったようだ。拘束人数は、出典によって幅がある。宗教上、又は報道の目的で、北朝鮮と中国の国境から不法入国した例もあった。その他は、北朝鮮で人道や開発、医療や教育支援活動に従事していた米国人だった。

国務省は、「限定的な人道目的または他の目的がある米国人は、国務省に特別な承認パスポートを申請できる」としている。裏を返せば、こうした人たちは、危ない立場に置かれることになる。北朝鮮政府が政治的な人質を取りたければ、より少ない選択肢のなかから対象となる米国人を選べば済むようになるからだ。

一方で、特別パスポートが必要になるため、米政府は北朝鮮に職務で渡ろうとする米国人の調査をすることが可能になる。北朝鮮を専門にする人道支援や教育支援の従事者の中には、宗教上の理由から、現地の法律やルールを破らざるを得ない状況に置かれる人も多くいる。国務省は、特別パスポートの発給を拒否することで、こうした人々を「守る」ことができるようになりそうだ。

北朝鮮に拘束されている米国人は、現在3人いる。Kim Hak-song氏、 Kim Sang-duk氏、そしてKim Dong Chul氏だ。

Kim Dong Chul氏は、羅先(羅津・先鋒)経済特区内の事業に関わり、諜報容疑で訴追された。Kim Hak-song氏とKim Sang-duk氏は、別々の時期に平壌科学技術大学に勤務していたが、帰国するため平壌の空港に出向いたところで拘束され、「敵対的行為」で訴追された。

結局のところ、渡航禁止は、米国政府が対応しなければならない拘束者の数は減らせても、ゼロにはできない可能性が高い。
>>2以降に続きあり)

2017年 9月 4日 1:18 PM JST