※続きです

■ 痴漢そのものを防ぐこと

この問題は一にも二にも、痴漢行為をする犯人が根元なのであり、痴漢犯が後を絶たないからこそ、被害も冤罪も含めて警戒する女性、“冤罪”におびえる男性の両方が存在するのである。
もちろん痴漢は男性から男性に、女性から男性に、また女性から女性に、と様々なパターンが存在するが、最も多い『男性から女性に』のケースを想定した上で、こうした構図が出来上がっている。
調査結果からは男女ともに“痴漢冤罪”が一番の問題だと捉えているように見えるが、実際に男性が“冤罪に巻き込まれる”ことよりも女性が“痴漢にあう”ことのほうが多いのは言わずもがなだろう。
警察庁による『平成27年警察白書』には平成22年から平成26年までの「痴漢事犯の検挙状況の推移」が示されている(http://www.data.go.jp/data/dataset/npa_20150901_0144/resource/ce38b16e-6bbd-44d6-81c2-5b6c75e5796c)。

都道府県の迷惑防止条例に該当する行為のうち痴漢(電車外も含む)の検挙数と、電車内における強制わいせつ犯の検挙数が集計されているが、その合計について、平成22年は3988件、平成26年は3722件と減少を続けている。
だが犯罪には『暗数』がある。実際に被害に遭いながらも様々な事情からそれを申告しないことで、結果的に検挙数などのデータにはのぼらない犯罪の数である。
痴漢被害者の暗数そのものの調査は見当たらなかったが、参考になるデータがあった。
警察庁による『平成25年版 犯罪被害者白書』の「犯罪被害実態(暗数)調査について」。

ここには窃盗や強盗など様々な事案についての被害申告割合が示されているのだが、痴漢や強姦を含む性的事件についても集計があった。
それによると調査期間5年のうち、性的事件については申告をしている割合が18.5パーセント。

そして申告をしなかった割合が74.1パーセント。
あらゆる犯罪被害の中で、申告をしなかった割合が最も高いのである。
痴漢事犯の検挙数は下がり続けてはいるが、ある程度犯人が野放しにされていると見ることができるだろう。

まず目を向けなければならないのは痴漢が実際に存在し続けているということではないだろうか。
男女別の車両を時間帯を区切って数車両ずつ用意すれば解決するというものではない。
痴漢に限って言えば、たしかに証拠を押さえることが難しいところに冤罪の生まれる余地がある。
多くの電車内には防犯カメラがなく、犯罪の立証には痴漢の被害者、そして目撃者の証言に頼らざるをえないところが大きい。

だが、手についた繊維を調べるという微物検査や、DNA検査が行われることもある。
先日これは北村晴男弁護士がテレビで取り上げていたため広く知られるところとなった。
もし本当に冤罪の被害に遭いそうになった際は、北村弁護士の言う通り、これらの検査を求めることが肝要だろう。

■ 犯人も容疑を否認する

後述するが、首都圏の各電鉄会社は、防犯カメラの導入をすすめる方針だ。
個人的にも、やはり電車内への防犯カメラ設置が、痴漢撲滅に奏功するのではないかと考える。
他の事件の公判では、街頭や駅構内の防犯カメラ映像が証拠として提出されることがもはや当たり前といっていい。
多くの電車内にいまだ防犯カメラが設置されていないことは、痴漢の犯人にとって安心を与えている。

おそらく痴漢の犯人はこう考えているはずだ。
客観的な証拠がない、もし相手に腕を掴まれても冤罪を訴えるふりをしてゴネればよいのだ……と。

この春に頻発した“痴漢を疑われて線路に飛び降りて逃走”したひとりの男が逮捕され、のちに公判が開かれた。
すでに記事にしているが、この男は実際に痴漢行為を働いていたのにもかかわらず、当初「離せ、やってねえよ」とシラを切っていた。
やっているのにやっていないふりをして逃げようとしたのである。
こうした事案はこれまで、他の公判でも何度も目にした。

つまり本当の痴漢も一旦は冤罪を訴えるのだ。
であれば本当にやっていない者がやっていないと言ったとしても、なかなか捜査機関に信用されづらい。
痴漢冤罪のいちばんの問題はここにある。

山手線、東京メトロではテロ対策、痴漢対策として、来春から順次、全車両への防犯カメラ設置がすすめられる。
東急電鉄でも2020年を目指し設置をすることが発表されている。

※続きます