<ピザゲート事件>偽ニュースが起こした“狂気”
9/11(月) 9:30配信 毎日新聞

 昨年の米大統領選をきっかけに爆発的に拡散した「フェイクニュース」が米国社会を揺らしている。
フェイクニュースを信じた男が、ピザ店で発砲する事件まで起こしたが、逮捕され、有罪判決を
受けた男の故郷を訪ねると、犯罪とは縁のなさそうな人物像が浮かび上がってきた。
毎日新聞米州総局(ワシントン)の清水憲司記者が報告する。【毎日新聞経済プレミア】

◇偽ニュースを信じた男がピザ店で発砲
 米大統領選がトランプ氏の勝利で決着した翌月の昨年12月4日。28歳の男が自宅のある
米南部ノースカロライナ州から約500キロ離れた首都ワシントンへと車を走らせていた。
「私たちには自分を守れない人々を守る責務がある。いつの日か理解してほしい」。娘2人に
宛てたビデオメッセージを撮影した後、男はワシントン市内のピザ店「コメット・ピンポン」に
押し入り、ライフル銃を発砲した。

 幸いけが人はなかったが、フェイクニュースの拡散を象徴する「ピザゲート事件」として全米を
驚かせた。男は「ヒラリー・クリントン陣営が児童の人身売買に関わっている」という
フェイクニュースを信じ込み、子供たちを助けるつもりだった。

 エドガー・ウェルチ被告は今年6月に禁錮4年の実刑判決を受けた。彼が育ったのは、
ノースカロライナ州ソールズベリー。幹線道路にファストフード店が建ち並び、典型的な米国の
田舎町に見えるが、多くのキリスト教の教会が次々に現れる。

◇娘2人を持つ熱心なキリスト教徒
 エドガー被告は娘2人を男手一つで育て、毎週日曜日には教会に連れていく熱心な
キリスト教徒だった。知人の話や裁判資料によると、大学で映画を学んでいたが、2010年、
ボランティアとして大地震直後のハイチに向かう。3週間の期限が近づいた頃、「子供を
3、4人引き取りたい」と母テリーさんに電話した。実現はしなかったが、帰宅すると自分の
持ち物をほとんど売り払い、子供たちへの寄付に充てたという。

 ホームレスの人を見かけると、車をとめてお金を渡すのも日課だった。その後で「お金が
ないからガソリン代をくれないか」と言い、父ハリーさん(70)を驚かせたこともある。

 ピザゲート事件の発端は、暴露サイト「ウィキリークス」が流出させたクリントン陣営幹部の
メールにあった「ピザ」の言葉だった。米メディアの分析によると、ネット掲示板では
「チーズ・ピザ」が児童ポルノの隠語として使われており、匿名投稿者たちの妄想をかき立てた。
オバマ前大統領の支持者が経営するピザ店「コメット・ピンポン」が次第にクローズアップされた。

 無責任な連想ゲームは、繰り返されるうちに「ニュース」としてネット空間に拡散し、
エドガー被告が聞いていたラジオ番組でも取り上げられた。3日間悩んだ末に、エドガー被告は
自ら事実を突き止めようとピザ店に向かった。

 父ハリーさんにはエドガー被告が「フェイクニュースの犠牲者」としか思えない。家族ぐるみで
親交があった女性は「人々が信じてしまうフェイクニュースはたくさんある。それが悔しくて
たまらない」と憤る。
(続く)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170911-00000008-mai-bus_all