ヒト受精卵
「命の始まり」決める遺伝子解明 英チーム
毎日新聞:2017年9月21日 02時00分
http://mainichi.jp/articles/20170921/k00/00m/040/174000c

 ヒトが受精卵から分化して正常に育つには「OCT4」という遺伝子の働きが欠かせないことをヒトの受精卵の実験で解明したと、英国などの研究チームが20日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。
一つの細胞である受精卵が分裂を繰り返して胎児になる「生命の始まり」の過程は今も謎に包まれており、全容を解き明かす鍵になると期待される。


 生物の遺伝子を効率良く改変できる「ゲノム編集」技術を使った。
ゲノム編集でヒト受精卵の遺伝子を操作する研究は米国と中国で計4例の報告があるが、
今回の英フランシス・クリック研究所などのチームは昨年、英政府の直轄機関「ヒト受精・胚機構(HFEA)」から公的承認を受けて初めて実施した。

 研究チームは、不妊治療で余った受精卵に「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術を使い、OCT4を働かなくさせた。
すると、個体発生に重要な遺伝子や胎盤の発育に強い影響が表れ、着床前の状態である胚盤胞まで分裂しにくくなった。
マウスなどの動物実験から従来想定されていた以上に幅広い影響があり、発生の「運命決定」に関わっているという。

 OCT4は、京都大の山中伸弥教授が体細胞を初期化してiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作る際に発見した四つの遺伝子の一つとして知られる。

 不妊症の中には、現在は原因不明で受精卵が着床しない例も多い。
研究チームは「将来は体外受精など不妊治療の改善につながる可能性がある」としている。