福井県内の有効求人倍率が2倍を超え、都道府県別で3か月連続の全国1位という高水準が続いている。

 県経済には一見、肯定的な数字にみえるが、県企業は慢性的な人手不足に苦しんでおり、労働市場は活況というわけではなさそうだ。背景には、地元出身の大学新卒者に対する求人の集中があり、経営者や専門家から「人材確保の偏りがアキレスけんになる」という指摘も出ている。

 福井労働局の発表では、有効求人倍率(いずれも季節調整値)は5月に2・09倍で東京を抜き、全国トップに。7月には2・11倍まで上昇し、全国平均(1・52倍)を大きく上回る。1年前と比べると0・29ポイント増で、伸び率でも全国の倍。10月からは時給の最低賃金が24円上がって778円と、時給表示になった2002年以降で最大の上げ幅となった。

 景気は回復を続けるが、企業側からみると、人不足が足かせになりつつある。

 帝国データバンク福井支店の調査(有効回答101社)では、「正社員不足」の回答は47・5%で1年間で8・4ポイント増えた。業種別で見ても、農林水産、金融、運輸・倉庫が100%、不動産、サービスも3分の2と、軒並み不足感を訴えた。

 人不足の背景として、帝国データの滝口勉支店長は「県内企業の採用方針が、地元出身の新卒者に偏っているからではないか」と地域特有の事情を指摘する。

 繊維業界をはじめとする県内製造業は近年、景気に左右されず安定経営を続けているため、離職・転職者は少ない。大企業でも社員の9割以上が県出身者ということも珍しくない。大都市圏のように就労経験のある求職者があてこめず、結果として、県出身でUターン希望の新卒者の獲得合戦に拍車をかけているという。

 同労働局によると、大学、短大など18年新卒予定者に対する求人数は6万8571人で、14年予定者よりほぼ倍増した。

県経営者協会の調査(有効回答160社)では、今春入社の新卒採用計画を達成できなかった割合は66・9%に達した。内定辞退者も多く、内定通りに新入社員を迎えたのは17・5%、18社にとどまった。

 新卒者の中でも限られたUターン就職希望者に求人が集中する現状について、同協会の峠岡伸行専務理事は「経営者の間でも『県内出身者ばかりで固めると、発想も偏ってしまうのでは』という懸念は強い」と話す。

 同協会や県は企業向けセミナーなどを通じ、県外からのIターン希望者の発掘に力を入れつつある。大学1〜3年生のうちに就労体験を積んでもらうなど、県内企業との接点を増やすインターンシップの活用を、企業に推奨。就職に関する専門家の間でも「安定した経営環境にある県内の企業は、高い人材教育の力を持っているはず」とされる。

 県内では、ドラッグストアの新規出店などが相次ぎ、求人のうちパートなど非正規社員の割合が6割にまで増加。共働きの世帯が多いうえ、仕事に就いたまま他の職を探す「様子見」の層も目立ち、求人倍率は高止まりすることが予想される。

 同労働局は「求職者の掘り起こしに力を入れる」と繰り返すが、企業の採用担当者らは「県内にほとんど開拓の余地はない」と厳しい見方をしている。(矢沢寛茂)

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