>>1の続き

 それから次男も生まれたが、A子はずるずると井上さんとの関係を継続した。ヒーローショーに4人で行ったこともあるという。

 ただ子供も成長し物心がついてくる。「おじさん」との不思議な関係に、立ち止まる日が来る。A子はついに「もう会わない」と井上さんに告げた。それから徐々に連絡を減らし、長きにわたった交際に終止符を打った。

 しばらくは平穏な日が続いた。だがある日、井上さんの弁護士から連絡が来た。長男についてA子にDNA鑑定に応じるよう求めてきたのだ。

 そして結果が出た。「井上さんとの生物学的な父子関係が強く推定される」。その確率は99・9999…%。長男は井上さんの子、次男は誠さんの子だった。

 井上さんはA子が結婚していることも知り、裁判所に夫の誠さんと長男の親子関係の取り消しを求める訴えを起こした。あわせてこれまでA子に渡してきた金銭の損害賠償をA子と誠さんに請求した。

・家族の行方

 迎えた判決。親子関係については婚姻中の「嫡出推定」にのっとり、井上さんの訴えは全面的に退けられた。

 今回と同じようにDNA鑑定上の親子関係が問題になった訴訟で最高裁が平成26年に示した判断を踏襲。「生物学上の父子関係がないことが科学的証拠から明らかでも、子の身分の法的安定を保つ必要性はなくならない」とした。

 一方で井上さんの損害賠償請求についてはA子に支払いを命じる判決が出た。シングルマザーであるとの井上さんの誤解に乗じて、金品を得られるように振る舞っていたと判断された。夫の誠さんについては「家計は妻任せだった」として賠償責任を否定した。

 一連の訴訟で、もっとも心をかき乱されたのは誠さんだっただろう。誠さんは訴訟でこう語っている。

 「長男を自分の子と信じて育ててきた。真実を知っても変わらない。子供に罪はない」