『病むアメリカ、滅びゆく西洋』 パトリック・J・ブキャナン

アメリカ大陸発見500周年を前に奇妙な現象が起きている。
コロンブスの大バッシングだ。
カークパトリック・セールの『楽園の征服』とジャン・カルー『コロンブス――楽園の侵犯』は、
「西洋の奴隷制度を持ち込み、今日まで続く恥と差別の遺産を生み出した」のはコロンブスだと痛烈に批判した。
国連はコロンブス記念行事をやめ、全米教会評議会はアメリカに「虐殺、奴隷制度、環境破壊、資源乱用」を持ち込んだ懺悔として500年祭は中止すべきとの見解を示した。
コロンブスの大西洋横断500周年にあたる1992年に国をあげての祝賀行事もほとんどなしに過ぎていった――
残虐かつ貪欲な征服者とのお決まりの糾弾だけが声高に叫ばれ、国中が当惑に打ち沈んだ。

偉大なるスペイン人探検家らは、すでに徹底して救いがたい殺戮者呼ばわりされている。
アメリカは「発見」されたのではない、狂った欧州侵略者が土着文化を焼き払い、先住民族を壊滅させたのだという。
今ではコルテスが自らの船を焼き払って退路を断ちアステカを征服、改宗させた行為は平和を愛する民族に対する文化ジェノサイドとされている。
アステカ族自体が征服者で、打ち負かした敵を隷属させ、アステカの軍神・太陽神ウィツィロポチトリに人身御供として捧げていた事実は無視して。
だいたい何をもって「文化ジェノサイド」というのか。
欧州人がアメリカ大陸入植を果たした当時、まだいくつかの部族には食人風習(カニバリズム)が残っていたのに――紡ぎ車を発明した部族さえなかったのに。