事実を捏造(ねつぞう)したフェイク(偽)ニュースの広がりに対する危機感が世界中で高まっている。
選挙や国の外交政策にまで重大な影響を及ぼすケースが相次ぐ中、偽情報の作成と拡散を請け負う「業者」まで確認された。
各国でフェイクニュースを排除し拡散を防ぐための取り組みが進んでいるが、一筋縄ではいかない難しさがある。

■ 悪質なビジネス

「どんなトピックでも書きます」「多数のライターを抱えており、独自の視点で記事が出せる」
フェイクニュースの記事作成や拡散などを請け負う業者の宣伝文句だ。
情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)では、8月下旬までに約30の業者を確認。
それぞれ英語や中国語、ロシア語などで書かれた注文受け付けサイトを運営しているという。

トレンド社が確認したサイトはいずれも、幅広い分野で質の高い記事を作成できるとアピール。
「偽の情報を発信」とは表記されていない。
ただ、インターネット上の別のページで、フェイクニュースを作成するサイトとして紹介されているという。

記事作成の価格は高くなく、簡単に注文できる仕組みだ。
例えば、確認された中国語のサイトでは、800語までの記事作成を100元(約1700円)で請け負う。

偽の記事を拡散させるビジネスもある。他の英語サイトでは、交流サイト「フェイスブック」に掲載された偽情報の投稿に対し、1カ月で千件のコメントをつける有料サービスを展開していた。
トレンド社の広報担当、鰆目(さわらめ)順介氏は「業者は巧妙に顧客を呼び寄せるだけではなく、サービスも多様化させている」と話す。

■ 世界中で被害

単なるいたずらではなく、選挙や外交に影響を与えようとの意図があるとみられるフェイクニュースは少なくない。
昨年の米大統領選では、候補者を狙ったフェイクニュースが次々と登場した。
米紙ニューヨーク・タイムズ(昨年11月12日、電子版)によると、選挙期間中、「ローマ法王がドナルド・トランプ氏を支持」「ヒラリー・クリントン氏は悪魔崇拝者」などといった偽の情報が流れた。

ネット社会に詳しい東京理科大学の平塚三好教授は「偽情報がどれだけ大統領選に影響したかは分からない」とした上で「冷静に考えたら嘘だと分かる情報でも毎日、目にすることで信じてしまう恐ろしさがフェイクニュースにはある」と指摘する。
米国以外でもフェイクニュースに扇動されたことがきっけで襲撃事件が発生したケースもある。
偽の情報が、危うく国家間紛争を引き起こしそうになった事例も確認されている。

■ 「罰金66億円」でフェイクニュース退治

こうした中、日本では今年6月、ニュースの正確性を検証する「ファクトチェック」を広げる団体「ファクトチェック・イニシアティブ・ジャパン」(FIJ)が発足した。
ファクトチェックに貢献する団体や個人を支援するほか、「フェイクニュースと疑われる情報」を集約するデータベースを作成する。

ただ、FIJの発起人である楊(やな)井(い)人文氏は「日本は欧米に比べ、ファクトチェックを担う団体が圧倒的に少ない」と話す。だれでも簡単に情報発信できるだけに、チェックすべきニュースは膨大になる。
その上、内容によっては真偽の判定に専門知識や複数の視点による検証も必要となる。

海外では、ファクトチェック団体が活発に活動するほか、フェイクニュースの取り締まりも行われている。
ドイツ法務省はフェイスブックなどにフェイクニュースの消去を義務付け、違反すれば法人に最大5千万ユーロ(約66億円)の罰金を科す法案を提案し、7月に成立した。

しかし、こうした対策が行き過ぎたものになれば「言論の自由」を侵す危険性もある。
フェイクニュースをチェックする機関をチェックする仕組みも必要になるかもしれない。

画像:ロシア語で書かれた、偽情報の作成などを請け負う「業者」のサイト
http://www.sankei.com/images/news/171008/wst1710080004-p1.jpg

http://www.sankei.com/west/news/171008/wst1710080004-n1.html