■“ビギナーズラック”に要注意

――痴漢をする人としない人の違いは? 

痴漢をするトリガーとなるものがあります。さまざまなトリガーがあり、類型化は難しいのですが、強いて言えば、言葉は悪いですが“ビギナーズラック”がトリガーとなる人が一定数います。
たとえば、満員電車に揺られているうちに、たまたま手の甲が女性のお尻に触れてしまった。
ところが、女性は無反応だった。このとき男性の脳内には大量のドーパミンが分泌され、衝撃的な快感を覚える人がいます。
当クリニックの受講者はこの状態を痴漢行為の「スイッチ」が入ったと表現することが多いです。

このスイッチが入った人は女性が無反応だったので、「ばれない」「意外と簡単」あるいは、「女性は嫌がっていない」と思い込んでしまいます。
これを「認知の歪み」といいますが、これに味をしめて最初は列車の揺れに合わせて触るなど偶然を装いつつ、回数を追うごとに少しずつ意図的な接触の度合いを高めていくのです。
「ばれたら大変だ」というスリルとリスクがさらに快感を助長させていきます。

そして、最初は衣類の上から触っていたのが下着の中に手を入れる、あるいは月1回の痴漢行為が週1回、1日おきへとエスカレートしていきます。
『犯罪白書』平成27年版によれば、はじめて痴漢をした人の平均年齢は33.1歳、痴漢で逮捕された人の平均年齢は41.4歳。
つまり、このデータからも初めて痴漢をしてから逮捕されるまでに何年も経っていることが読み取れます。
それだけ膨大な被害者の数がいるということです。

――薬物やアルコール、ギャンブル依存症に似ていますね。

そのとおりです。いけないことだとわかっていてもやめられない。
これが最後、あと1回だけと言って繰り返し、行為がエスカレートしていく。まさに依存症です。
逮捕されたときに「捕まって安心した」と言う痴漢も少なからずいます。
もはや自分ではやめられず、逮捕されてほっとするのでしょう。
ただし薬物やアルコールの依存症との違いは、自分の健康を害する行為ではなく、必ず被害者がいるように他者の健康や尊厳を踏みにじる行為であるということです。