http://jp.reuters.com/article/tbs-stocks-idJPKBN1CV09T

Quentin Webb

[香港 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 海外の「物言う投資家」が、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)の弱点を突いている。ロンドン拠点の投資会社アセット・バリュー・インベスターズは、出資先の東京放送(TBS)ホールディングス(9401.T)に対し、保有する上場企業株を売却し、売却益を株主に分配するよう要求した。

筋の通った要求だが、この「株式持ち合い」という日本の悪しき慣習を崩すには、さらに突き上げが必要だろう。

TBSは半導体製造装置大手、東京エレクトロン(8035.T)の株式を大量保有しているが、明確な投資理由はないはずだ。保有株式の額は約13億ドルで、TBSの時価総額の40%近くに相当する。一方で、同社の株主資本利益率(ROE)は過去50年近くも平均3.1%にとどまっており、このような思慮の浅い資本配分は株主をにとってなおさら苛立たしい。

多くの日本企業は未だに、株式持ち合いによって資本を縛り付けている。必ずしも相互合意に基づく関係ではないが、多くを要求しない安定株主は企業にとって有り難いものだ。そして、企業は持ち合い株を手放せば、長く続いた友好関係を傷つけることになる、と主張する。

以前に比べればこの慣習は薄まっている。野村証券によると、保険業界を除く株式持ち合い比率は1990年には市場時価総額の約3分の1を占めていたが、今年3月時点では10%程度に減少した。

ただ足元では、企業がROE目標の採用や取締役会の強化に取り組んでいるのと裏腹に、持ち合い解消の方は歩みが遅い。2016年から17年にかけて持ち合い比率は0.2ポイントしか減っていない。規制当局からの圧力で、大手銀行は持ち合い解消を進めているが、それ以外の業種では遅々として進んでいない。たとえば京セラ(6971.T)は通信大手KDDI(9433.T)の株式を90億ドル強も保有し続けており、香港のヘッジファンドが何度指摘しても手放そうとしない。

株主は今後も圧力をかけ続けるだろう。武器は2つある。第1に、当局の指針により、企業は持ち合い株の正当性を説明するよう求められている。第2に、こうした問題こそ、物言う投資家の出番だろう。「バリュー投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアム氏が米国のパイプライン企業に対し、眠っている資産を株主に分配するよう迫ったのは90年ほども前のことだ。「ニッポン株式会社」の旧弊も、さすがに打破の潮時と言っていいだろう。

●背景となるニュース

・アセット・バリュー・インベスターズは24日、出資先の民放キー局、東京放送(TBS)ホールディングスに対し、保有する他の上場企業株を売却し、利益を株主に分配してほしいと要求した。

・アセット・バリューはTBS株式の1.5%程度を保有しており、ロイターの取材に対し、もしTBSが持ち合い株を解消しなければ次回の株主総会の議題にかける用意があると強調した。

・アイコンのデータによると、TBSの保有する株式のうち、半導体製造装置大手、東京エレクトロンの株式が約770万株で最大となる。東京エレクトロンの24日の終値で計算すると、保有株の時価総額は約13億ドル。