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 ◇目先の結果優先が選手壊す

 順天堂大スポーツ健康科学部准教授で、同大陸上競技部女子監督の鯉川なつえ氏は「成長期の誤った食習慣で、将来的に体を壊す選手が多く見られる」と危機感を募らせている。15年に大学女子駅伝出場選手314人に調査した結果、72%が食事制限、73%が無月経、46%が疲労骨折を経験していた。高校時代に無月経になり、1年半後に骨折するケースが多かった。一方、8割はFATを知らず、婦人科の受診は3割にとどまった。

 「女はすぐ太る」「太ったら走れないぞ」「ひじきだけ食え」−−。鯉川氏は、中高時代のコーチから日常的に減量プレッシャーをかけられていたという声を陸上部員たちから何度も聞いた。摂取カロリーが低く、無月経の状態で入部してくる選手も多い。本人が食事への恐怖感を抱えている場合も多く、順天堂医院の女性アスリート外来と連携し、食事指導と筋力アップといった基本的な体作りから取り組むという。「目先の結果を優先すれば、選手の健康や体作りは二の次になってしまう。そもそも海外では、監督が女性選手の体重を把握すること自体が、セクハラや人権侵害として非難される行為です」と鯉川氏は話す。

 ◇日本は女性の指導者少なすぎる

 海外では選手保護のための制度作りが進む。

 全米大学体育協会(NCAA)では、監督・コーチは選手の体重などのデータを本人の同意なく確認できないと定める。医師やトレーナーが選手の健康状態を管理し、無月経や栄養不足が確認されると練習や試合出場を停止する措置が取られる。1週間の練習時間も上限20時間と決まっている。

 鯉川氏は「日本も、指導の妥当性や選手の状態をチェックする機関や健康管理を大会の出場条件にするなどの改革が必要ではないか」と提案する。

 日本で女性の特徴を踏まえた指導が定着しない背景には、女性コーチが少ないこともあげられる。米ミネソタ大の研究機関の調べでは、大学スポーツの監督は米国では4割が女性だが、日本では2割弱だ。16年リオデジャネイロ五輪でも、日本代表は男女ほぼ同数なのに、監督・コーチで女性の比率は1割台だった。

 順天堂大の鯉川氏は「男性と女性では成長過程や体の特徴、効果的な指導方法が全く違う。女性コーチの積極的な雇用や育成が必要だ」と強調。「摂食障害につながりかねない危険な食事制限を課される中高生ランナーは大勢います」と話し、陸上界の構造的な問題だと示唆している。

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 8日の公判で原被告が摂食障害に苦しみ抜いたこと自体に争いはなかった。中村海山裁判官は「治療してください」と念押し、懲役1年執行猶予3年の判決を言い渡した。

おわり