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「商業捕鯨等のための鯨類科学調査の実施に関する法案」

この法案の目的は1.商業捕鯨の実施による水産業の発展 2.海洋生物資源の持続的な利用に寄与とされていますが、実際は国が計画を策定し、指定法人に指示することで 
1) 調査捕鯨を安定的に継続するための資金の確保 
2) 調査捕鯨を継続するための捕鯨母船の新造 
3) 公費を投じた特定業界のための販促キャンペーン 
4) 国際的な声を遮断するための外国人活動家の入国管理 
です。
この法案の問題点は二つあります。 一つは、冒頭に掲げられている商業捕鯨再開が、日本の関係者にとって旨みのない、単なるお飾りでしかないこと。
いくら調査捕鯨を継続したところで国際社会の納得は得られず、国際捕鯨委員会で再開に必要な3/4以上の賛成を得ることは不可能です(注1)。 もう一つは、国際的に調査の土台である科学性が強く疑われていることです。

もともと、鯨肉の売り上げで継続する予定であった調査捕鯨は、鯨肉の消費の低下で運営費用を賄えず、実施主体であった日本鯨類研究所は債務超過に陥ってしまいました。このことは、現在の需要では、産業として成り立たないことを意味しています。南極での捕鯨は、政府予算の投入によって初めて可能な事業なのです。(注2)

科学調査であれば、国際的にも貢献できる「良い」ことだと誤解する人もいるかもしれません。しかし、実際は、「原則は鯨類の捕獲を伴うもの」つまり、クジラを捕殺することが前提です。1946年の国際捕鯨取締条約締結からすでに70年。
その間に、捕鯨を取り巻く状況は変化し、また殺さない調査技術は格段に進歩しました。国際捕鯨委員会(IWC)では、20以上に上る日本の調査捕鯨の停止あるいは再考の決議がされています。また、2014年に国際司法裁判所によって下された判決では、日本の実施した南極海調査捕鯨の目的が条約の定めにそぐわず、国際法に違反していると認定されました。
日本政府は、南極及び北西太平洋での新たな調査捕鯨の提案を出していますが、いずれも、IWC科学委員会専門家パネルで強い批判を浴びています。

こうした現実を無視し、批判に一切耳を貸すことなく、とにかく継続できるようにするのが今回の法案なのです。この結果、私たちは毎年多額の税金を費やされたうえ、友好国からは強い反発を受け、国際社会に恥をさらすことになります。
現在捕鯨対策予算として水産庁は年間50億円以上を計上していますが、これは日本の沿岸漁業全体の資源調査等予算46億円をも上回っています。

法案が成立すれば、その金額はさらに膨れあがり、水産業の発展どころか、捕鯨以外のすべての水産業がそのしわ寄せを受けることになるでしょう。何ら国益と結びつかない法案です。このようなとんでもない法案を通過させるようなことがあってはなりません。

注1)1982年に決議された商業捕鯨一時停止モラトリアムはを覆すには4分の3の支持票が必要。 
注2) 2008年、商業捕鯨時代の3大捕鯨企業だった大手水産会社のマルハ、ニッスイ、極洋は、再び商業捕鯨に参入しないと公表した。(朝日新聞2008年6月14日)