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 太平洋戦争末期の沖縄戦戦没者の身元不明遺骨のうち、沖縄県内に保管されている約600人分の中に、DNA鑑定が可能な手足の骨が多数含まれているにもかかわらず、鑑定が全く実施されていないことが分かった。厚生労働省は今年4月、身元特定に向けたDNA鑑定の対象を歯のみから手足にも広げたが「別人の骨が交じっている可能性がある」のが理由。遺族側は柔軟な対応を求めている。【熊谷豪】

 ◇DNA、対象拡大後も

 約600人分の遺骨は、平和祈念公園(同県糸満市)内の「仮安置所」とされる倉庫に別々の袋に入れて保管されている。2013年以降に県内で収集されたもので、それ以前の収集分は火葬され残っていない。

 身元特定の唯一の手段であるDNA鑑定は03年から始まったが「遺留品や埋葬者名簿で身元が推定できる」という厳しい条件があり、対象も精度が高い歯に限られていた。このため特定できた遺骨の99%は埋葬者名簿があるシベリアのもので、沖縄は軍関係の4人にとどまる。

 こうした中、昨年3月に遺骨収集を「国の責務」と定めた戦没者遺骨収集推進法が成立。厚労省は鑑定部位を手足にも広げたほか、遺留品がなくてもDNA鑑定ができるように運用を改めた。沖縄では約18万人の戦没者の半数を占める民間人の遺族も含めDNA鑑定を広く受け付けている。現在、歯のある84体について手足も試行的に鑑定対象とし、194人が申請しているが約600体は対象外だ。

 関係者によると、約600人分の遺骨の中には、手足の骨も多数交じっているという。だが、同じ部位の遺骨が同じ場所で複数見つかっているケースがあるほか、厚労省は「骨1本でも1人分といえるのか」として全く鑑定していない。

 保存状態がよければ大腿(だいたい)骨1本の一部を切り取ってDNA鑑定し、身元が判明すれば残った部分を遺族に返すことは技術的に可能とみられる。

 遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さん(63)は「たとえ骨1本でも帰ってきてほしいと願う遺族の思いを大切にしてほしい」と話している。

 ◇遺族「時間との勝負」

 DNA鑑定が手つかずのまま保管されている沖縄県の約600人分の戦没者遺骨。ボランティアらがせっかく収集しても、厚労省がさまざまな理由を設けて鑑定が遅々として進んでいない。

 遺骨収集のボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松さん。糸満市内の「ガマ」と呼ばれる洞窟で今年9月、遺骨を掘り出した。

 爆風で吹き飛んだためか、骨はバラバラ。DNA鑑定の対象になる歯や大腿骨もあった。

 だが、具志堅さんは表情を曇らせた。腰の骨の一部で、複数人のものが交じっていたからだ。歯もあるが、頭蓋骨(ずがいこつ)から外れている。この場合、厚労省のDNA鑑定の対象外になってしまうという。遺骨は無縁仏のまま、平和祈念公園内の仮安置所に納められた。

 肉親の「帰還」を待ちわびる遺族は焦燥感を募らせる。

 南城市の団体職員の男性(57)は祖父母や伯父ら7人を沖縄戦で亡くした。糸満市の海岸線近くなどで最期を迎えたとされるが、当時6歳だった父(78)は多くを語りたがらない。遺骨が見つからず、お墓には遺骨代わりに石を入れているという。

 今年7月、厚労省が初めてDNA鑑定を希望する遺族を公募したのを受け、男性も「血縁の近い父が元気なうちに」と申請を決めた。「時間との勝負だ。早く鑑定をしてほしい」と話す。

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