【カイロ=飛田雅則】中東のレバノン情勢がにわかに不安定になっている。サウジアラビアは9日、自国民にレバノンからの退避を勧告した。レバノンの首相が先週、訪問先のサウジでイランを批判して突然辞任。その後、イラン系のイエメンの武装勢力が発射したとされるミサイルをサウジが迎撃する事態に発展した。レバノンを巡ってサウジとイランの緊張が高まる構図となっている。

 レバノンはイスラム教スンニ、シーアの両派とキリスト教などが複雑に入り乱れている。スンニ派はサウジなどアラブ諸国、シーア派はイランが支援する。地理的な要衝に位置するため、アラブ諸国とイランなどが主導権争いを続けてきた。

 サウジは9日、自国民に対してレバノンからの早期の退避や、渡航自粛を勧告した。レバノンを巡るイランとの緊張の高まりを受けた措置とみられる。対立が表面化したきっかけは、4日のハリリ氏のサウジでの首相退任表明だ。

 ハリリ氏は退任表明前の3日に、イランの最高指導者ハメネイ師の顧問と会談していた。会談で顧問は「レバノンを守り続ける」と発言した。「イランによる挑発」とみたサウジはハリリ氏を呼び寄せたという。イランは武装組織ヒズボラを使って国内政治に干渉していると批判させたうえで、サウジはハリリ氏に辞任を迫ったとの見方が出ている。

 サウジが神経をとがらせるのは、イラクとシリアの両政府による過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦の支援を口実に、イランがシリア内戦に介入したためだ。ISはほぼ掃討され、イランの影響力だけが残る形となった。結果的にイランはイラクからシリア、レバノンと西方の地中海に抜ける地政学的なルートを確保しつつある。

 サウジなどスンニ派アラブ諸国は、こうした動きを警戒してきた。サウジはイランの影響力の拡大を抑えるため、イエメンなどに軍事支援をしてきた。レバノンもサウジとイランの「代理戦争」の舞台となりかねず、中東の混乱がさらに深まる恐れがある。

配信2017/11/10 9:37
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2333523010112017EAF000/