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11月22日 18時36分医療

大手製薬会社「ノバルティスファーマ」が販売する高血圧治療薬に関連して、名古屋大学が行った臨床研究の論文について、大学の調査委員会は、研究が不適切だとして、論文を取り下げるよう研究代表者の教授に勧告しました。

大手製薬会社「ノバルティスファーマ」が販売する高血圧治療薬「ディオバン」については、ほかの薬を服用した患者に比べて、脳卒中の発生率が低くなるなどとした臨床研究を行った京都府立医科大学や千葉大学など4つの大学でデータの操作などが明らかになり、論文が撤回されています。

名古屋大学の研究グループも、「ディオバンを飲んだ患者は、ほかの薬の患者より心不全による入院が少なかった」とする論文を発表していましたが、大学の調査委員会は22日の会見で、心不全で入院したとされた5例が実際には入院していなかったことや、事前の計画書では「心不全の悪化による通院治療」も研究対象に入れるとしていたにもかかわらず、実際は含まれていなかったことなどを明らかにしました。

また、「ノバルティスファーマ」の元社員が、症例の判定委員会の運営に関わっていたことがわかり、調査委員会は独立性などが担保されていなかったと指摘しました。

そのうえで、研究が不適切だとして論文を取り下げるよう、研究代表者の教授に勧告しました。

名古屋大学では3年前に調査結果を公表し、一部の訂正を指示したものの、論文に大きな問題はないとしていましたが、修正が正しく行われていないという指摘を受けて、大学が改めて調査を行っていました。

ディオバンは高血圧治療薬として世界100か国で販売され、国内での売り上げは去年までにおよそ1兆4000億円に上ります。

ディオバンの臨床研究問題とは

スイスに本社がある大手製薬会社ノバルティスファーマが販売する高血圧の治療薬「ディオバン」は、世界のおよそ100か国で販売され、国内での売り上げは去年までにおよそ1兆4000億円にのぼります。

このディオバンの販売促進に利用されていたのが、名古屋大学を含む5つの大学で行われた臨床研究の論文でした。臨床研究は、ディオバンとほかの薬の効果を比べるもので、ディオバンには血圧を下げるだけでなく脳卒中や狭心症の発症を減らす効果があるなどと結論づけた論文が平成19年以降、5つの大学から相次いで発表されました。

ところが5年前、このうち京都府立医科大学の論文のデータに不自然な点があると専門家から国際的な医学雑誌に指摘が寄せられ、大学が調査した結果、データに人為的な操作があったことが明らかになりました。

その後、名古屋大学以外のほかの3つの大学の研究にも同様の疑いがあることが発覚し、そのほとんどの論文は撤回されました。

また、名古屋大学を含む5つの大学の研究には、いずれもノバルティスの元社員が所属を伏せたままデータ解析の担当などとして参加していたことが明らかになった一方、5つの大学の研究室にはノバルティスから合わせて11億円余りの寄付を受けていたこともわかりました。

こうした事態を受け、東京地検特捜部はノバルティスファーマと元社員を、臨床研究でデータを改ざんして京都府立医科大学の研究チームに虚偽の論文を発表させたとして薬事法違反の罪で起訴しましたが、東京地方裁判所はことし3月、「意図的なデータの改ざんは認められるが、論文は薬事法で規制された誇大広告にはあたらない」などとして無罪を言い渡し、東京地方検察庁は判決を不服として東京高等裁判所に控訴しています。

一方、こうした問題を受けて臨床研究の防止を目指す「臨床研究法」がことし4月に成立し、製薬会社からの資金提供を受けた臨床研究などについてデータの不正がないか研究機関側が点検したり、研究実施後に検証できるようデータを長期保存したりすることなどが定められ、一連の問題は研究や医療の現場に大きな影響を及ぼしています。