結論から言うと、これは全くのデマであった。コンビ名「8・6秒」は、50メートル走の記録としてあまりにも遅かった、というコンビ自身の体験からつけられたもので、
実際の史実ではエノラ・ゲイ号の機長(ポール・ティベッツ)が、広島原爆投下時に放った言葉は「Lusting God laid light」などではなく、原爆炸裂による機体への衝撃波を軽減するために取った回避命令「信号音停止用意―旋回用意」である。

 「8・6秒バズーカー」が「反日芸人」としてネット上で名を馳せたのは、このようにまったく根も葉もない匿名のネットユーザーによる妄想の類であり、典型的なネット空間の下流(ネット右翼)から発生したデマであった。

 が、このフェイクニュースを、政治的に右派的な傾向が強烈な保守系言論人や文化人が、SNS上で匿名ユーザーのツイートを引用したり、リツイートを繰り返したりすることで補強する格好となり、
「著作を持っており、保守系論壇誌にも寄稿している社会的信用性の高い人間が追認しているのだから、その情報の信憑性は高い」と受け止めてますますこのフェイクニュースが拡散される加速器の役割を果たしたのだった。

 最初、ネットの下流(匿名空間)から発生したデマが、上流(非匿名)に存在する「保守系言論人・文化人」によって権威付けされ、結果的に拡大再生産されるという現象を生み出すことになったのである。

嫌韓ヘイト、ニュースに昇格

 また09年7月には、ネットメディア「ロケットニュース24」にて、「韓国伝統の人糞酒『トンスル』とはどんな酒なのか」という執筆者匿名の短いニュースが大きな話題となった。

 記事の要旨は、韓国には伝統的に人糞酒(トンスル)が存在し、現在でも韓国の一般家庭で広く飲用されている、という内容であった。
この「ロケットニュース」は、元々韓国に嫁いだ日本人女性のブログ≠ゥら人糞酒の存在を引用しているという体を取っており、この韓国に嫁いだ日本人女性というのも匿名の正体不明・その内容の真偽も不明なもので、
そこに記述された「トンスルってご存知ですか? 韓国語でそのままうんこ酒≠ネんですが。まぁうんち酒≠ナもババ酒≠ナも大便酒≠ナもええんやけど。このうんこ酒。いわゆる漢方の一つなんだそうです」という殴り書きを引用する形でニュースにしている、というお粗末なものであった。

 韓国家庭では現在も人糞酒が広く愛飲されているというのは、言わずもがなデマである。
一度でも渡韓経験がある人間なら、近代化された韓国で人糞酒などお目にかかったことはないだろうし、ましてそれが一般家庭で愛飲されているなどということはデマであることが分かろう。

 しかしこの記事をきっかけに、韓国や韓国人を「トンスル(人糞酒)国家」「トンスル(人糞酒)民族」と蔑称することが、この時期のネット空間における匿名のネット右翼の間で常識的になった。

 21世紀の現在、人糞酒などを薬の代わりに飲んでいる韓国人は、文明度の低い野蛮人である―というヘイト言説を垂れ流すときに、必ず付随したのがこの「トンスル」という噓であり、デマであった。

>>3へ続く