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https://mainichi.jp/premier/business/articles/20171201/biz/00m/010/057000c

「何でもかんでも両論併記」は言論空間をダメにする
2017年12月4日 山田道子 / 毎日新聞紙面審査委員

最近、「この問題で両論併記するのはおかしい」と感じることが多い。選挙でやたらに「公平公正」が叫ばれたせいかもしれない。
毎日新聞の第三者機関「開かれた新聞委員会」の委員、作家の吉永みち子氏は「バランスや公平も大事だが、ある軸の中で判断し、『ここは違う、事実と反する、批判は当たらない』という指摘をしないといけない。報じる側の軸が定まらず両論併記されると、読者は自分でどう判断したらいいのか、分からない」と話した。(10月17日毎日新聞朝刊)
東京都の小池百合子知事が関東大震災時に朝鮮人虐殺事件があったかどうかについて「さまざまな見方がある。歴史家がひもとくもの」と語ったことなどを踏まえてのメディアへの注文だ。

両論併記は思考停止につながる
ライターの武田砂鉄氏と、ドキュメンタリー映画監督の三上智恵氏との対談(毎日新聞11月25日朝刊)では、両論併記が思考停止につながっていることが取り上げられた。
沖縄で米軍基地問題に密着してきた三上氏が、「作家の百田尚樹さんが、講演で、基地問題を取材する地元紙記者の阿部岳(たかし)さんを本人の前で名指しして、『中国が琉球を乗っ取ったら、阿部さんの娘さんは中国人の慰み者になります』と言ったそうです。この発言自体、もちろん論外」と話した。
それを受けて武田氏が「彼のような過激な発言でさえ、世間では『両論併記』の片方として認められがち。『ちょっと本音を言いすぎたね』とか『どっちもどっちだよ』と扱われてしまいます」と語った。
そして三上氏は「少なくない人が、『自分は公平な立場にいる』となぜか信じ込んでいて、『両方の意見にうなずける』『難しい問題ね』で思考停止する」と述べる。私は「両論併記」は、批判や炎上からの「逃げ」の側面が大きくなっているとみる。
日本にはびこる「どっちもどっち論」
東京新聞は8月18日朝刊「こちら特報部」で「日本にもはびこる『どっちもどっち論』」と問題提起した。米南部で白人至上主義と反対派が衝突した事件を巡り、トランプ米大統領が「双方に非がある」と人種差別を容認したが、「日本はトランプ氏を笑えるのか」と問いかけた。
記事によると、ヘイトスピーチ問題に詳しいジャーナリストの安田浩一氏は「どっちもどっち論」を「DD論」と呼び、沖縄での「土人」発言を想起したと明かす。昨年10月、沖縄・高江の米軍北部訓練場のヘリパッド移設工事現場に派遣された大阪府警の機動隊員が抗議する市民に「どこつかんどるんじゃボケ、土人が」と罵声を浴びせた。

これを「出張ご苦労様」とねぎらったのが松井一郎大阪府知事で、当時の鶴保庸介沖縄担当相も参院内閣委員会で「差別と断じることはできない」と答弁。政府は「謝罪し答弁を訂正する必要はない」との答弁書を閣議決定した。「喜ぶのは、他ならぬレイシスト(差別主義者)だ」と安田氏は皮肉った。
“強姦告発”の反応を「両論併記」
私が想起するのは、元TBS記者に強姦(ごうかん)されたとして、名前と顔を出して被害を訴えたフリージャーナリストの伊藤詩織氏が5月に記者会見したことに関する報道。例えば毎日新聞6月9日朝刊は「翌日からネット上で『勇気ある行動』などと励ます声の一方で『ハニートラップ』『胸元開けすぎ』などバッシングが広がった」と両論併記した。
伊藤氏と元TBS記者の主張を両論併記するのは報道機関として当然だ。だが、「励ます声」と「バッシングの広がり」を併記したことには違和感を抱いた。伊藤氏に対するバッシングは今も衰えない。「ハニートラップ」「胸元開けすぎ」を批判せず放置していいのだろうか。
あのタレントの壇蜜さんが出演した宮城県の観光PRエロ動画。「面白い」「ページビューが増えた」という評価と「性的な表現が含まれており不快」という批判の両論併記が多かった。自治体による女性差別の炎上商法を許していいのかと思った。