人なし、カネなし、時間なし。
そんななかで唯一PEZY Computingの武器となったのは、トップダウン方式で物事を決めていく、
階層のない少数精鋭部隊「スカンクワークス」型のチーム力だった。

年齢も役職も気にすることなく、メンバー同士が自由にアイデアを出し合える環境と、
最終的には齊藤の判断をみなが信じて動く、
即断即決のスピード感。それが可能にする素早いトライ・アンド・エラーの繰り返しのなかで、
彼らが見つけたスパコン開発へのキーは「液浸冷却」というシステムだった。

通常、スパコンは膨大な熱を発生するため、
冷却装置を設けるための広大なスペースと大量の電力が必要となる
(6階建ての建物をまるまる占めるスパコン「京」は、1日に700万円の電気代を使っている)。

そこで齊藤は、電気を一切通さず、空気よりも1,000倍の熱運搬効率を誇るフッ化炭素の液体に、
CPUやメモリー、基板といった“スパコンそのもの”をすべて高密度に沈めてしまう荒業で、
冷却にかかる空間的・経済的コストを圧倒的に削減することにしたのだ。

そうして彼らは、オフィスの一室に収まる、
これまでは考えられなかったほどコンパクトでエネルギー消費効率のよいスパコンを開発することに成功した。

その動作が初めて確認できたのは、2014年10月22日。
TOP500の申請締切日のたった10日前のことだった。
そのコンピューターには「液体の中で花を咲かせよう」という想いとともに、「Suiren」(睡蓮)という名前が与えられた。
https://wired.jp/special/2016/motoaki-saito/