バルテュス??「巨匠」となった倒錯者? 浅田彰
http://realkyoto.jp/blog/balthus/

「21世紀にはバルテュス(1908-2001)やフランシス・ベーコン(1909-1992)やルシアン・フロイド(1922-2011)が西洋絵画最後の巨匠と見なされることになるだろう」。
半世紀前にそんなことを口にしようものなら、ただちに一笑に付されたに違いない。「『ロリコン』に『ゲイ』に『デブ専』??そんな変態連中が巨匠? まさか!」

実のところ、私はその時代の「良識」はある意味で正しいと現在でも思っている。むろん、彼らの絵画はたんなる倒錯的ファンタスムに還元できるものではないが、そのようなファンタスムが
作品の核にあることは否定すべくもない。それらは芸術の本流から離れた物陰で後ろめたい快楽とともに密かに享受されるべき「あぶな絵」であり、だからこそ刺激的なのではなかったか。

しかし、アメリカ現代美術が芸術の本流だった時代から半世紀が経ち、抽象から具象への揺り戻しが進んだあげく、具象画の中心にあるのはやはり人体表現だ、20世紀におけるその代表格がバルテュスやベーコンやフロイドだ、
という見方(さしずめジャン・クレールに代表される)が異様な広がりを見せるに至り、彼らの倒錯的なポンチ絵がオールド・マスターズの名品かと見紛う天文学的な価格で取引されるようになったのである。世紀の奇観と言うほかはない。