スティグリッツ

――巨額の財政赤字を考えれば、日本も欧米も財政の引き締めは避けられないのでは。

 「経済を成長させてこそ、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を下げることができます。

財政再建を優先し経済成長を犠牲にするやり方では、財政赤字を減らせません。

歳出削減と増税を急ぐ緊縮財政は、つねに失敗してきました。弱含みの経済を悪化させ、税収を減らすからです。

いまは欧州がひどい失敗に陥っています」

 ――しかし、成長でみんなが豊かになれるとは限りません。

 「そこが重要な点です。

格差(不平等)の問題に向きあわなくてはいけない。

GDPが増えても、大半の人びとの暮らしが悪化すれば、幸せになれません。

そういう事態が米国で起きた。

2009年から11年までの景気回復で、GDPの増加分の1・2倍ものお金を、所得上位1%の富裕層が手に入れて

しまったので、99%の人びとは、一層貧しくなりました。

日本もそうならないよう、所得再分配を工夫しなければなりません。

3本目の矢は、単なる成長戦略ではなく、格差是正に配慮することが欠かせないのです」


「成長は、それ自体が目的ではないし、GDPは豊かさの尺度として欠陥が多い。

重要なのは環境保全も含めて、すべての市民の生活の質や福祉水準を高めることです。

だからこそ所得の分配と、誰が政策の恩恵を受けるかということに、私たちは敏感でなければいけません


――近著「世界の99%を貧困にする経済」で、所得再分配がみんなを豊かにすると説いていますね。

「所得上位1%の人は下位の人に比べ、収入を消費に回す比率が低いので、所得再分配をしたほうが経済を刺激できます。

再分配は経済を刺激し、成長させるための有効な手段のひとつなのです」