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AIBOの取扱説明書には、補修部品の保有期間は生産終了後7年、とある。したがって、2014年にソニーが補修サービスを打ち切ったときにも、残念の声はあったものの、それ以上の声はあまり聞かれなかった。以降、オーナーもソニーに対して“治療”の復活を望むことはせず、自力でその治療先を探したのも、仕方のないことだ。この間、ソニーがロボットを世に送り出していないという事実によっても、彼らはそれなりにあきらめがついていたと思われる。

ところが、ソニーは今回、イヌ型ロボットの復活を宣言しながらも、旧型については、今後とも関わるつもりはないと説明した。オーナーたちは、果たして、川西氏のこの発言を何の抵抗もなく聞いたのだろうか。さらに、この川西氏の発言を深読みすれば、新しくaiboのオーナーになる人も、いつかは先代のAIBOのオーナーが抱いたのと同じ思いを抱くことになるかもしれない、と解釈できる。

果たしてこれでいいのだろうか。

ソニーに対して最もロイヤリティーの高いAIBOのオーナーに対して、ソニーが「もうあなたのAIBOには関わるつもりはない」と宣言するのは、問題があるのではないか。最悪の場合、彼らがソニーに切り捨てられたという思いにとらわれることはないのだろうか。万が一にもそんな思いにとらわれた人は、二度とソニーの製品には戻ってこない。

この発言の対象がAIBOではなく、テレビやゲーム機、カメラといった製品であれば、抵抗なく素直に聞き流せたことだろう。しかし、aiboはそうした製品とは異なる。先代のAIBOのユーザーは、ほかの電気製品とは違った所有の仕方、より人間的な接し方をしているのだ。

■自動車業界で進む愛車の修理を続ける試み

自分が愛情を注いでいる製品をいつまでも“健康に”保ちたい、というユーザーの願いにメーカー自らが積極的に応えようとする動きは、最近、自動車業界で見られるようになっている。

ボルボ・カー・ジャパンは2016年8月、横浜市に「クラシックガレージ」を新設した。旧型のボルボ車を、専任のマルチ・スキル・テクニシャンが整備し、可能な限りオリジナルの“健康体”に戻す取り組みを始めている。

国内メーカーでは、マツダが軽量2シータースポーツカー「ロードスター」(1989年に発売した初代モデル)のレストアサービスを来年初頭より開始する。この12月13日にはその予約が開始される。補修パーツについても、その一部を供給メーカーと協力し、復刻・再供給する計画だ。

この両社を突き動かしているのは、おそらく自分たちがつくった製品を、可能な限り永く、愛情を持って使ってほしいという思いだろう。

公益社団法人の全国家庭電気製品公正取引協議会は、家電品の製造打ち切り後、補修用性能部品の最低保有期間を定めている。その対象はカラーテレビや電気冷蔵庫をはじめ34品目。ところが、aiboのようなロボットはその対象品目のリストにはない。今後この種の製品が、家庭に普及するようになると考えれば、業界としても自主的なルールを定める必要があるのではないか。ソニーがこの種のロボット市場に真剣に再参入しようとするのであれば、むしろ積極的にルールづくりに取り組んでほしい。

ソニーのエンジニアがAIBOからaiboへロボット事業の継続性を保ちたいという気持ちはよく理解できる。しかし、aiboのオーナーの中には、自分のaiboの命脈を断たれる日がいつか必ず来ると、事前に念押しをされたのだと感じる人がいてもおかしくないだろう。

先代のAIBOの補修サービスを再開する可能性がまったくないのであれば、ソニーは今回の新しいロボットにAIBOを連想させない別の名前を与えたほうがよかったのではないか。同じ名前を使ったことで、新しいaiboには、先代のAIBOのオーナーが味わった悲しみも引き継がれてしまった。

おわり