米軍こそ帝国海軍の失敗に学べ

 こうした懸念は、今日の米軍にも当てはまる。

 米軍の各部隊は優れたシステムを持ち、9.11後の戦争を経て、複雑で変化が激しい未来に準備するために様々な取り組みを行ってきた。

 しかしここに来て、バイオテクノロジー、ロボティクス、3Dプリンタ、ナノテクノロジー、エネルギー技術、サイバー技術など、国防総省の管理が及ばない領域の重要性と影響力が高まっている。

 これらは容易に誰でもアクセスできる技術である。例えば、数千ドルの予算で複数のドローンを3Dプリンタで作成し、スマートフォンと爆弾をつけて空港に向けて飛ぶように指示し、大型輸送機を破壊・損傷させることも可能だ。

 また、IoT化によって脆弱さを増した工業用制御システムは、もはやサイバー攻撃を阻止できない。発電所やダムは攻撃を受ければ暴走し、医療施設や交通機関は大混乱を引き起こすだろう。

 ロシアがウクライナで実施したハイブリッド戦争や、中国が南シナ海で実施中のグレーゾーン紛争の脅威にも目を向けるべきである。ハイブリッド戦争とは、軍事的手段と宣伝戦とサイバーを含む非軍事的手段の統合運用である。グレーゾーン紛争とは、米国や多国間の対応には至らないが、時間とともに影響力を増していき戦略的なレバレッジを確保する行動である。

 ここで注目すべきは、今後、戦争の「重心」(打破することにより決定的な影響をもたらすポイント)が従来の兵器同士による戦闘ではなくお茶の間や携帯電話に移行する可能性があるということだ。完全武装した兵士や漁民による非武装作戦やSNSによって増幅される宣伝戦も脅威となるだろう。伝統的な戦闘力ももちろん重要だが、米国は国防総省のみならず国家全体でハイブリッド戦争に対応する必要がある。

ハイブリッド戦争に無関心な自衛隊

 以上のウェルズ氏の指摘は、つまるところ戦いに勝っても戦争の勝利につながらないことを意味する。

 ウェルズ氏の指摘の根底には、「戦争とは、政治目的を達成するために実施されるべきものだ」というクラウゼヴィッツの思想がある。「戦争とは、我が意志を相手に強要するために行う力の行使である」「敵の打倒とは、戦争の本来の目的たる政治目的とは異なる」というクラウゼヴィッツのよく知られた箴言は、戦いに勝つ以外の力の行使でも、意思を強要できれば戦争に勝てることを示唆している。

 このような戦争の本質を無視して都合の良い作戦構想に走り、そのための技巧に走った典型例が日本の旧帝国海軍であり、そうした愚を米国が繰り返すべきではない、国家が管理できない技術イノベーションの戦争への影響を見極めつつ、ハイブリッド戦争やグレーゾーン紛争に備えよ──というのがウェルズ氏の指摘である。

 この問題は我が国とっても深刻だろう。なぜならば、自衛隊は作戦構想はおろか、それ以前のドクトリンすらない段階だからだ。しばしば海兵隊側から指摘されるように、陸上自衛隊のドクトリンは1950年代で止まったままである。航空自衛隊は、彼らが公式に認めているように2011年までドクトリンが存在しなかった。

 また、自衛隊には、特に陸自には作戦環境という概念はほとんどなく、彼らの文書ではあまり出てこない。実際、自衛隊はハイブリッド戦争やグレーゾーン紛争には無関心である。何せ防衛省広報室は筆者の問い合わせに対し、平時における、爆発物を積載した民生ドローンによる駐屯地等への攻撃には事実上何もできないと回答している。

 もしリントン氏の指摘するように、ある日、那覇の国際通りや那覇空港に完全武装の人民解放軍の兵士が出現し、しかし、武器使用を行わないまま要所を制圧、同時に自爆する所属不明の民生ドローンが宮古島の地対艦ミサイルを破壊し、本土にはサイバーアタックで混乱を与えればどうなるかは火を見るより明らかだ。

 このままでは自衛隊は中国や北朝鮮を相手に帝国海軍の二の舞を演じることになる。いつまでも過去の漸減邀撃構想のような離島防衛やミサイル防衛ばかりに固執するのではなく、ハイブリッド戦争やグレーゾーン紛争を前提とした作戦構想をオールジャパンで樹立し、編成と装備を変更し、同時に、3Dプリンタやサイバーといった民生技術の急速な発展を把握しつつ、柔軟に取り込んでいくことが急務である。

 南西諸島での「戦い」を主眼においた離島防衛やミサイル防衛はまことに結構である。だがもし敵がサイバーや宇宙、もしくは尖閣諸島以外の地域から、そして、ロシアがクリミアでやったような手口で中国なり北朝鮮が攻めてきたらどうするのか?

(執筆:部谷直亮)

前スレ:2017/12/11(月) 18:55:23.74
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