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約束手形の振出金を巡り、裏書人となっている亡くなった著名人の遺族らに対し、
佐賀県武雄市の男性(70)が計55億円の支払いを求める手形訴訟を福岡、佐賀
両地裁に起こしていることが分かった。訴えられているのは故鳩山邦夫元総務相や
福岡ソフトバンクホークスの前社長、地元飲食チェーン店の前会長らの遺族や
会社関係者。裏書には印鑑もあるが、遺族らは「身に覚えがない手形で印鑑も異なる」
と反論、福岡県警に詐欺未遂容疑での刑事告訴も検討している。

訴状によると、原告男性は昨年6月に亡くなった鳩山氏ら計19人の遺族や会社関係者に対し、
手形金計55億円の支払いを求めている。福岡地裁には4月5日付で額面50億円の手形の
支払いを求め提訴。佐賀地裁には5億円を請求する訴訟を6月23日付で起こし、審理は
福岡地裁に移された。原告男性は「50億円の訴訟については、手形の元所有者から
12億5千万円の債権譲渡を受けたため一部訴えを取り下げた」としている。

訴えられた遺族らはいずれも「裏書に使われている印鑑は偽造された可能性がある」と主張。
鳩山氏の次男で衆院議員の鳩山二郎氏は「弁護士からは全く問題ないと聞いている。
父が亡くなり今も悲しみの中にいる母や姉を思うと訳の分からない裁判を起こされ、
怒りを感じている」と述べた。別の遺族は「身に覚えがない裁判を起こされ、訴訟費用だけで
数百万円もかかっている。早く平穏な生活に戻りたい」と話した。

原告男性は西日本新聞の取材に対し「私と知人が生前の裏書人全員と直接会って
手形が本物であることを確認した。最高裁まで争うつもりだ」と答えた。

■手形訴訟過去に悪用例

手形訴訟は、所有者が速やかに債権回収できるよう通常の民事訴訟よりも手続きが
簡略化されている。証拠は文書に限られ、証人尋問も認められない。このため過去には
盗難手形などを悪用した訴訟も相次ぎ、社会問題化した経緯がある。

原則として裁判所は印鑑や署名、印紙など一定の書式が整っていれば、手形の真偽を
判断することなく訴訟を受理。訴えられた被告側が反論しなければ原告側の主張を
認めたとみなされるため、争う場合は身に覚えのない訴訟でも被告側が立証しなければならない。

1998〜2003年には盗難手形や、銀行が発行したものではない私製手形を使った訴訟が
全国で相次いだ。盗難手形による訴訟は東京地裁が99年に立て続けに棄却。私製手形でも
03年、東京地裁が「制度の乱用」として却下し、同様の判決が全国に広がった。

福岡地裁で00年に起こされた訴訟では被告側が「裏書は偽物」と主張したが、一審は署名を
本物と判断し支払いを命令。しかしその後、被告名の印鑑が偽造されていたことが判明。
裏書の筆跡も異なるとして、二審の福岡高裁は原告の請求を退ける逆転判決を言い渡した。

中央大法科大学院の丸山秀平教授(商法)は「偽造手形を悪用したケースでは、
原告側が和解や示談に持ち込むことを狙っている可能性がある。訴えられた場合、
速やかに本人の筆跡や印鑑証明などの証拠を集めるのが重要だ」と指摘する。