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●「日本人は、一律で皆が守る決まりやマナーはきちんと守る。例えば、駅のホームで並んで電車を待つとか。皆がやってるから自分も、という感じで。でも、その都度臨機応変に自分で決めなければならず、かつ何かしらの損を伴うものは守らない。電車内でお年寄りに席を譲るとか。横断歩道でも、皆止まってないし、急いでるし、自分だけ止まるのは損だと思っている」(神奈川県・50代女性)

●「仕事柄あちこちの国を旅して、車を運転しています。欧州の国々では、さすが自動車発祥の文化を持つからか、自己責任で周囲をよく見て運転するドライバーが多いと思います。そして何よりも印象的なのは、信号機が少なく一時停止の交差点が多いことです。そうなると、横断歩道も含めて状況をよく注視しなければなりません。それに引き換え、我が国では信号機の数のなんと多いこと。信号機さえ守れば…… の意識が生まれてしまうのも納得です。自動車とはきわめて個人主義的な乗り物、乗り手の責任で走らせるもののはずなのですが、信号機や追い越し禁止区間の多さなど、“お上”にしたがっていれば良い文化ができてしまったのが根本原因です」(東京都・70代男性)


■「歩行者妨害」違反、10年前の2倍 警察庁は取り締まり強化

 横断歩道では歩行者が安心して渡れるよう、ドライバーが確実に一時停止をすることが最も重要だ――この認識のもと、警察庁は取り締まりの徹底とドライバーへの啓発を推進するよう全国の警察を指導しています。

 横断歩道は、全国に114万6201本あります(今年3月現在)。うち、信号機のないものは半数以上の60万6201本。信号機を設けるには、事前に対象となる場所の交通量や交通事故の発生状況などを調査・分析。信号機に代わる効果的な対策があるかどうかを考慮したうえ、必要性の高い場所を選んでいるといいます。

 道路交通法は人が横断歩道を渡っていたり、渡ろうとしたりする時、ドライバーは一時停止しなければならないと規定しています。警察は「横断歩行者妨害」違反として取り締まります。違反すると、2点となり、普通乗用車だと9千円の反則金が科されます。

 道交法違反全体の取り締まり件数が減少傾向にあるなか、「横断歩行者妨害」違反の件数は増加傾向にあります。昨年1年間の取り締まりは約11万1千件と10年前に比べて2倍近くになっています。

 取り締まり強化の一方で、横断歩道での交通事故は後を絶ちません。昨年1年間の歩行者と車両の交通事故は5万1551件で、10年前より約30%減りました。このうち信号機のない横断歩道での人身事故は4694件で、10年前の15%減にとどまっています。

 警察庁の担当者は「横断歩道で人が渡ろうとしているのに止まらないのはマナー違反ではなく法令違反。厳しく取り締まるとともに、免許更新時の講習などで教育を行っていく」としています。(浦野直樹)

■車優先の意識 変えよう

 なぜ止まらないのか、どうしたら止まるのか。交通心理学が専門の松浦常夫・実践女子大学教授に聞きました。

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 横断歩道を渡ろうとする歩行者がいるのに止まらないのは、明確な道路交通法違反です。ルールを守るはずの日本人が法律を無視した運転をして平気なのは不思議です。

 心理学では、守るべきルールを「命令的規範」、実際にみんながとっている行動を「記述的規範」といいます。日本人は後者を大事にする傾向があります。信号機のない横断歩道の場合、車は「止まらない」が記述的規範になっています。

 背景に、道路は車優先という意識があります。欧米には、車も歩行者も、自転車も交通参加者として同じ権利があるという意識が根付いています。日本もこの意識に変えていかなければなりません。

 一つには、街なかで車のスピードを抑えるようにすること。以前と比べればずいぶんスローになっていますが、より歩行者らに配慮するようにするのです。 ※以下書略

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 これほど多くの人が「横断歩道で止まらない車」にストレスを感じているとは。ルールは明確、でも現実には守られていない。ドライバーからは「止まらない言い訳」がいくつも挙がりました。では、5千件近い事故が起き続ける現実を変えるにはどうしたらいいのでしょうか。やはり車本位の思考、運転席からの発想を改めるしかないと思います。ドライバーも車を離れれば、「止まらない車」の犠牲になりかねない歩行者です。横断歩道で戸惑う歩行者の気持ちになることはできるはずですから。(中島鉄郎)

おわり