埼玉県は、山で遭難した人たちを県の防災ヘリコプターで救助した際にかかる費用を徴収する制度を全国の自治体で初めて今月1日から始めました。この制度は救助に危険が伴う山に限定したもので、県は、十分な準備をせずに遭難する事故を抑止するためのものだとして、注意を呼びかけています。

埼玉県では山岳での遭難事故が去年は63件で、この10年で1.5倍に増加していて、十分な準備をせずに遭難する事故を抑止するため、山で遭難した人たちを県の防災ヘリコプターで救助した場合、燃料費に相当する手数料を徴収する制度を今月1日から始めました。

徴収する金額は5分で5000円で、例えば救助に1時間かかった場合は6万円となります。

対象は小鹿野町にある二子山や日高市の日和田山など、6つの山の埼玉県側にかかる頂上付近や岩場など、救助に危険が伴う山に限定しています。

自治体の防災ヘリでの救助が有料化されるのは全国で初めてで、埼玉県は新たな制度の周知を進め、準備を十分に整えて登山するよう呼びかけています。埼玉県消防防災課の市川善一課長は「登山をする際は綿密に計画を立てて、天候が悪い場合はやめる勇気をもってほしい」と話しています。

■有料化の対象となる山

埼玉県小鹿野町にある二子山の山頂から半径1キロ以内、埼玉県日高市の日和田山にある男岩と呼ばれる岩場の半径100メートル以内、埼玉県小鹿野町と秩父市にまたがる両神山の山頂から半径3キロ以内、埼玉県秩父市と、山梨県山梨市、長野県川上村にまたがる「甲武信ヶ岳」の山頂から半径5キロ以内の埼玉県側、それに、埼玉県秩父市と山梨県甲州市にまたがる「笠取山」の山頂から半径5キロ以内の埼玉県側、埼玉県秩父市と東京・奥多摩町、山梨県丹波山村にまたがる「雲取山」の山頂から半径3キロ以内の埼玉県側です。

■山岳遭難救助の危険な実態

県の防災ヘリコプターによる山岳救助の有料化に至る背景には、危険が高い山に十分な準備をせずに登って遭難する事故を、少しでも抑止したいという狙いがあります。

埼玉県では、8年前の平成22年、秩父市の山中で県の防災ヘリコプターが遭難した登山者を救助するため、静止しながら飛行するホバリングをして救助隊員を地上に降ろしている最中に墜落し、隊員など5人が死亡する事故が起きました。

埼玉県では、民間の救助ヘリコプターの運用がなく、山岳での救助要請があった場合、3機ある県の防災ヘリコプターが救助にあたっていて、事故のあと、ヘリコプターに乗る救助隊員を3人から4人に増やし、事故の再発防止に努めてきました。

※省略

■年末年始の山岳遭難事故相次ぐ

年末年始も山岳遭難は各地で相次ぎました。先月26日、山梨県上野原市にある標高およそ1100メートルの坪山の尾根の斜面で、東京や千葉から登山に来ていた、いずれも70代の男女3人が倒れているのが見つかり、その後、死亡しました。3人は、3日前に日帰りの予定で登山に訪れていましたが、行方不明になり、警察や消防が遭難したと見て捜していました。先月28日には、長野県の八ヶ岳連峰にある標高2600メートルの根石岳付近で、大阪の40代の夫婦が倒れているのが見つかり、死亡しました。前日、夫婦から雪と強風のために動けなくなったと連絡があり、警察が遭難したと見て行方を捜していました。

■登山者の反応は

有料化の対象となった埼玉県日高市の日和田山は「男岩」と呼ばれる高さ20メートルほどの岩場が、ロッククライミングの名所としてここ数年、人気が高まっています。4日も朝から東京の山岳クラブの体験会が開かれるなど、およそ20人がロッククライミングを楽しんでいました。

しかし、岩場の周辺では、転落事故などで県の防災ヘリコプターが出動するケースが年に数回あり、救助活動が難しい岩場のため、今回、この岩場の頂上から半径100メートルの区域が有料化の対象地域となりました。

都内から来た登山客の男性は「有料化になったことは全く知りませんでした。それなりにまとまったお金が取られるようなので不安です」と話していました。一方、都内から来た登山客の女性は「いろいろなところでヘリコプターの墜落に関するニュースを耳にするので、有料化もやむをえないと思います。事故を起こさないようにしっかりと準備をして登りたいです」と話していました。

1月4日 17時34分
NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180104/k10011279041000.html