2018.01.08
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20万種類はゆうに超えると言われる日本の名字。なかには、珍しい名字の家に生まれたばっかりに、思わぬ苦労をしている人たちもいる。ああ、「鈴木」や「佐藤」だったらもうちょっと楽だったのに――。

■ハゲじゃなくてカムロです

「全国的に見てもきわめて稀な名字で、彼の親類しかいないはずです」

『全国名字大辞典』ほか多数の著書があり、名字研究の第一人者として知られる森岡浩氏が、「珍しい名字」の筆頭としてあげるのが、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの主砲・筒香(つつごう)嘉智選手だ。

「ルーツは和歌山県の高野山の奥、奈良県との県境付近にある地名です。江戸時代には上筒香村・中筒香村・下筒香村の3つにわかれ、現在もそれぞれ伊都郡高野町の大字として残っています。

名字というのは、もともと家と家を区別するためにつけられたものなので、地名をルーツとするものが多いのです」

ちなみに、筒香の出身地は高野町の隣の橋本市だ。

他にも、日本テレビの人気女子アナウンサー、「ミトちゃん」こと水卜(みうら)麻美アナウンサーの名字も極めて珍しい。

水卜の「卜」はカタカナの「ト」ではなく漢字の「ぼく」。「占う」という意味だ。水占は古代から行われていた水を使った占いの一種で、それを行っていた寺院などの場所に由来する名字だという。

このように、日本全国には、思わず「え?これなんて読むの」と尋ねたくなるような名字が山ほどある。

「小さいころは、ハゲ!ハゲ!とからかわれて、何度か喧嘩もしました。そんな失礼なことを言うのは本当に一部のイジメっ子だけでしたけど、アイツらの顔は一生忘れませんよ」

苦々しげな声で語るのは、九州地方に住む禿(かむろ)さん(男性)だ。

子供時代の苦い経験を乗り越えた禿さんだが、大人になるとまた別の苦労が待っていた。

「役所などで名前を伝えるとき『かむろ』では通じないと思い、仕方なく『ハゲと書いてかむろと読みます』と言うんです。

でも『禿』という漢字自体を普段使わないから、向こうの人が書けないんです。電話口でも名字の説明が大変なので、あるときから面倒になり、『カタカナでカムロで良いです』と伝えています」

北海道には住職を務める禿義廣さんがいる。この禿さんが「私自身はイジメられたことはないですが」と苦笑しながら、名字のルーツを語ってくれた。

「もともとは、浄土真宗の親鸞上人が自らのことを『愚禿(ぐとく)』と呼んだことに由来して、明治時代以降に名字として名乗っているパターンが多いそうです。

『愚かな禿』と書くのだけれど、髪のないという意味の禿ではなく、おかっぱ頭の童子、すなわち、まだ未熟で修行の途中にある人間という意味なんです」

数え方によって諸説あるが、日本には10万〜20万種類の名字があると言われている。これに対して、おとなりの韓国の姓は286と公表されており、日本のほうがはるかに多いことがわかる。

なぜ、これほどまでに多彩な名字があるのか。

「その昔は、自分で好きに名字をつけることができたのが要因です。いまでこそ『姓』と『名字』という言葉はいっしょくたに使われていますが、元は別のものでした。

姓は天皇から賜り、勝手に変えられないものだったのに対し、名字はめいめいが自由に名乗れるものだったので、数が無数に増えた。これに対し、韓国や中国には『姓』しか存在しないので種類が少ないというわけです」(前出・森岡氏)

それぞれが住んでいる土地柄や職業などをもとに、個性的な名前を探していったのだろう。

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