まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている

小さなといえば、明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう
産業といえば農業しかなく、人材といえば三百年のあいだ読書階級で
あった旧士族しかなかった
明治維新によって日本人は初めて近代的な「国家」というものをもった

たれもが「国民」になった

不慣れながら「国民」になった日本人たちは、日本史上の最初の体験者と
して、その新鮮さに昂揚した
この痛々しいばかりの昂揚が分からなければ、この段階の歴史は分からない
社会のどういう階層の、どういう家の子でも、ある一定の資格をとるために
必要な記憶力と根気さえあれば、博士にも、官吏にも、教師にも、軍人にも、
成り得た

この時代の明るさは、こういう楽天主義(オプティミズム)から来ている

今から思えば、実に滑稽なことに、コメと絹の他に主要産業のない国家の
連中は、ヨーロッパ先進国と同じ海軍を持とうとした。陸軍も同様である
財政の成り立つはずがない

が、ともかくも近代国家を作り上げようというのは、元々維新成立の大目的
であったし、維新後の新国民の少年のような希望であった

この物語は、その小さな国がヨーロッパにおける最も古い大国の一つロシアと
対決し、どのように振舞ったかという物語である