11日で発見から1カ月 「5分の遅れ、取り戻せず…」

 東海道・山陽新幹線「のぞみ」の台車に亀裂が生じたまま運転が続けられた問題で、JR西日本の現役社員が毎日新聞の取材に応じ、「運行時間や車両数に余裕が少ないことが背景にある」と証言した。11日で亀裂発見から1カ月。JR西は再発防止策を進めるが、亀裂の原因解明や異常を見過ごした体質の改善など課題は多い。

新幹線の本数が多く遅れが出やすい時間帯は、標準の所要時間に「余裕時分」を上乗せしてダイヤを組む。JR東海によると、のぞみは東京−新大阪(552キロ)を最速2時間22分で走るが、昼間は10分程度の余裕を持たせている。

 一方、JR西が管轄する新大阪−博多(644キロ)は最速2時間21分。現役社員は「余裕時分は数分程度だけ。ぎりぎりでやっている」と話す。乗客106人が犠牲になった福知山線脱線事故(2005年)でも、スピードアップのため余裕時分をゼロにしていたことが問題になった。

 新大阪以西は高架やトンネルが多くスピードが出せるため、余裕時分を短くしているとみられる。だが、社員は「5分でも遅れていたら取り戻せない。遅れを東海に引き継ぐのには心理的な負担がある」と説明する。

 車両数も大きな差がある。東海道と山陽にまたがって運行する列車は、新幹線を中心に運賃収入を稼ぐJR東海は133編成あるが、在来線の割合も高いJR西は40編成のみ。異常があった時の代替車両のやりくりに影響しやすい。社員は「対応の柔軟性に欠け、ダイヤの乱れが東海に比べて多い」と指摘する。

 今回の問題で、異常を受けて乗り込んだ車両保守担当者と、東京にいる指令員が運転停止の判断を互いに相手任せにしていた点が厳しく批判されている。

 JR西は問題を受けて4回の記者会見を開き、運転を続けた要因について「遅延に対する恐れはある」と、現場社員にかかる定時運行のプレッシャーを認め、異常なしと確認できない場合は、ためらわず停止させる方針を打ち出した。だが、来島達夫社長は会見で「止めるのは勇気がいる」とも述べ、ダイヤ優先主義からの脱却が容易でないことも浮き彫りになった。

 同社の再発防止策は「異常時は現場判断を最優先する価値観の徹底」など抽象的なものから、台車の異常を検知する設備の設置などハード対策まで計15項目。車内の異音などが複合する場合の対処ルール策定など6項目は既に実施したという。

 亀裂の原因調査は国の運輸安全委員会や鉄道総合技術研究所が続けており、結果次第でさらに対策が迫られる。亀裂は金属疲労で生じたとみられるが、検査で見逃していた場合、手法や周期の見直しが早急に必要になる。【根本毅】

■東海道・山陽新幹線「のぞみ」の亀裂問題

 2017年12月11日、博多発東京行き「のぞみ34号」で、JR西日本の車掌らが30件の異音や異臭を確認したが、名古屋駅で点検するまで3時間以上運転を続けた。断面が「ロ」の字形の台車枠(鋼鉄製)は底面から両側面にかけて計約44センチの亀裂が生じ、上部約3センチしか残っていなかった。国の運輸安全委員会が新幹線初の重大インシデントと認定し、JR西の対応なども調査している。

JR西日本の主な再発防止策
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2018年1月11日 08時00分(最終更新 1月11日 10時50分)
毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180111/k00/00m/040/145000c